博物館の周辺にある石材をみてみましょう。博物館前にある噴水や敷石に使われている石材は、白色・桃色・赤色の粗い結晶からなるみかげ(花崗岩)類です。噴水の石材は茨城県筑波山塊の白い花崗岩です。噴水周りの敷石には、北欧フィンランドやブラジル産の赤色花崗岩と、桃色と白色花崗岩が円形に配置されています。赤色花崗岩は地球で最初の大陸である先カンブリア紀(約10億年以上前)の盾状地を作る岩石で、地球創生期の情報を提供します。桃色花崗岩には一部に、岡山県万成の万成みかげ(白亜紀:約8000万年前)が利用されています。これらの敷石は薄く加工したみかげの端材を角を取り再利用したもので、リサイクルストーンと呼ばれます。
博物館入口横にある「ハイポーズ」像の土台の赤みかげは、ブラジル産のカパオボニートと呼ばれ、上に述べた10億年ほど前の岩石です。教育会館前の宮沢賢治の記念碑には、台座に白い花崗岩が、球状部が黒色のはんれい岩(粗粒の深成岩)が使われています。教育会館南側の歩道には秩父産のチャートと思われる、赤褐色の礫が使われています。
美術館の入口には赤みがかった球状の模様のある花崗岩が多量に用いられています。教育会館の銘板も同じ石材です。この球状花崗岩はラパキビ花崗岩と呼ばれ、フィンランド産のバルチック・ブラウンという石材で、13~17億年前に作られたものです。この球状模様はどのように作られたのでしょうか。よく見ると、球状を呈するのは正長石でその縁を白い斜長石という鉱物が取り巻いています。黒いつぶつぶ(黒雲母)が環状に並んでいるのも見られます。この球状模様の成因については諸説があり、未だ解明されていません。いずれにしても太古の地球で大陸が生まれる過程を物語るものです。
美術館内の柱や内壁には灰白色の石灰岩が使われています。これはイタリア産のトラベルチーノ・ロマーノという石灰岩で、更新世(200万年前以降)に形成されたものです。珊瑚礁を作る石灰岩が崩壊して堆積し形成されたものと言われ、多孔質の縞状をなすこうした石灰岩をトラバーチンと呼びます。
文化公園の南側歩道沿いの置石・西側の新庁舎入口前や機関車前の公園銘板には、岐阜県蛭川村付近の木曽石が数多く使われています。褐色地に白い四角い結晶(正長石)の斑点がよく目立ちます。パイロットの入口の石垣も同じ木曽石です。この木曽石は花崗斑岩という岩石で、みかげ石(花崗岩)の仲間ですが、やや浅所で形成されたもので基質が細粒です。白亜紀後期(約7000万年前)に形成されたもので、苗木花崗岩として岐阜県南部に広く分布しています。
江陽中学校東側の石垣や北側の縁石、文化公園の機関車周りには、真鶴町の小松石(本小松石)が使われています。間知石という先の尖った形に加工し、石垣などに多量に利用されています。神奈川県内で現在採掘されている石材はこの小松石だけです。小松石には本小松石と新小松石とがあり、前者は真鶴町の西側(山側)に、後者は真鶴半島に分布する溶岩です。後から採掘された新小松石は、現在ではもうほとんどとれなくなっており、現在では本小松石が切り出されています。本小松石は、真鶴駅北西側の山麓を構成する箱根古期外輪山溶岩の内の1枚の溶岩で、厚さ40m以上ある、灰色緻密の複輝石安山岩です。この溶岩流は星ヶ山西方の標高
830mの山から噴出したものといわれています。本小松石は目が細かく、墓石としてよく知られています。
写真:平塚市美術館内壁材に使われているイタリア産石灰岩