自然探偵と麦の秋 (2005.6)
博「ねえ、探偵。ちょっと心配なことがあるんだけど。」
物子「私たちの通学路にちょっとした空き地があるんだけど、気がついたらそこの草がみんな枯れているのよ。まだ、6月だっていうのにおかしくない?」
博「誰かが除草剤(じょそうざい)をまきすぎたんじゃないかとか、草の病気でもはやっているんじゃないかなんていう意見も出て、大騒ぎ(おおさわぎ)なんだよ。」
探偵「ああ、それは麦の秋だね。」
物子「麦の秋ってなにさ。今は初夏でしょ。」
探偵「君たちの身近には麦畑がないからなあ。コムギやオオムギの畑の穂が熟して一面キツネ色になる今頃の季節を、俳句(はいく)の季語(きご)で麦秋(ばくしゅう)というんだよ。」
物子「それで、道ばたもどうして麦の秋なの?」
探偵「今ごろ、一面に枯れている草には、名前にムギとつく植物が多いんだ。カラスムギ、イヌムギ、ネズミムギ、ムギクサ・・どれもイネ科の植物だよ。」
博「イネ科の草って、どれも似ていて名前を調べるのがむつかしいんでしょ。花も地味だし。」
探偵「そういわずに、ルーペを使って観察すると、なかなかきれいだし、図鑑でじっくり調べれば名前もちゃんと分かるようになるよ。ところで、今あげた植物にはもう一つ共通点がある。何だと思う。」
物子「初夏に穂が熟して枯れることでしょ。」
探偵「問題は、それがなぜかということだね。日本の気候(きこう)だと、夏は温度が高くて雨もよく降るから、植物にとってはつごうがよい季節だ。だから、もともと日本にあった植物は春に芽生えて、秋まで葉を広げる種類が多いんだ。ところが、世界を見ると、夏が暑く、しかも雨が少なくて乾燥(かんそう)がはげしいので植物にとって過ごしにくい場所も多くあるんだ。そうした条件の地域では、秋に芽生えて春の終わりには枯れてしまう生活のしかたが有利になる。イヌムギ・ネズミムギ・ムギクサなんかは。そういう気候の地域が原産地の外来植物だ。カラスムギももともと日本にあった種類ではなくて、古い時代に作物といっしょに持ち込まれた種類だと考えられている。つまり、今頃、一面に枯れ草が見られる風景というのは、外来植物の作っている日本らしくない風景ということになるね。」
→ 自然探偵のトップへ
→ 平塚市博物館トップへ