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ひらつか歴史紀 第17回 幕末の村おこし竏瀦ミ岡村の報徳仕法 その6

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第17回 幕末の村おこし竏瀦ミ岡村の報徳仕法 その6(報徳仕法の成果) (2010年8月号)


  前回は片岡村で実施された報徳仕法の主な施策をみてきました。それらの施策からは、村内の中層以下の人びとを助成・支援し、村内の底上げを図り、貧困をなくすことで、人びとの村からの流出を防ぎ、村の活性化・村おこしをおこなうことが片岡村の報徳仕法の主眼であったことがうかがえました。今回は報徳仕法の成果をみていきたいと思います。

  
 さて、報徳仕法はいかなる成果をみせたのでしょうか。本格的仕法開始から7年めの弘化2年(1845)12月には、「当村の義はあらまし立ち直り候」といわれ、復興の成果が感じられる状況になったようです。また、嘉永元年(1847)2月の大澤小才太が弟政吉(福住正兄)に宛てた書状では「目にかかるほどの困窮人も少なく、日に増し人気穏やかに罷り成り」と村の様子を報告しています。そして、翌嘉永2年には「人気風儀村柄立ち直り、期日を違わず皆納にあいなり候」と村柄の立ち直りと大澤家への小作米の皆納が述べられました。さらに、翌嘉永3年、大澤小才太たちは尊徳に片岡村の様子を「銘々借財返済、質地田畑請け戻し、あるいは買い受け、または夫食農具積み重ね、何ひとつ不足これなく、鼓腹まかりあり候様になり、村方の様子何となく勢いよろしく」と報告しました。

【表1】片岡村民の諸稼ぎ状況
項目 天保9 嘉永5
他奉公・余業・半農の家 22軒 0軒
村総人口 247人 272人
江戸奉公 19人 4人
他奉公 22人 3人
当村奉公 10人 2人
他住居 10人 0人
余業稼 3人 0人
日雇い 1人 0人

 報徳仕法の成果を仕法実施直前の天保9年と実施後の嘉永5年とで数字で比較すると、人口は247人から272人へと増加、江戸への奉公など51人いた出稼ぎ人は7人に激減しました。また、戸主が「他奉公」・「余業」・「半農」とされる家は22軒から0軒となりました【表1】。その結果、大澤家の小作米は報徳仕法実施直前の天保9年には不納米が264俵余もありましたが、嘉永3年には89俵にまで減少し、翌4年にはさらに30俵に減少しました。
 村民の村への還流と人口増加、農業従事者の確保といった村の復興、それにともなう大澤家の地主経営の安定化という課題は成果をみせたといえます。

  それでは、なぜ、片岡村の報徳仕法はこのような成果をあげることができたのでしょうか。それは、先に述べたように
村内の中層以下の人びとを助成・支援し、底上げを図ることで、人びとの村からの流出を防ぎ、村の活性化をはかる報徳仕法の手法が第一に考えられます。ただ、当時における米価上昇竏樗_業景気も報徳仕法の追い風になっていたと考えられます。片岡村と同じ大住郡の上粕屋村(伊勢原市)で記録された米価動向をみると、化政期(1804縲鰀1829)には平均して1両に1石1斗ほどでしたが、天保饑饉の暴騰を経て、天保10年以降は1両に1石を越えることなく1石縲怩T斗を高下しながら上昇傾向を示していきます(「米価記録」片岡家文書 小田原市立図書館蔵)。つまり、こうした米価上昇竏樗_業景気により、人々の生業志向が賃稼ぎから農業生産へと転換され、報徳仕法はこの農業志向のもとで帰農・就農を願う人びとに農具助成や無利融通など有利な条件で農業生産に従事できる環境を作ったと考えられるのです。すなわち、報徳仕法の成果は、当時における人々の農業志向とそれを促進した諸施策が一致して実現したものと考えられます。

 一方、前回述べましたように、片岡村の報徳仕法は村外では真田村の上野七兵衛や伊勢原村の加藤宗兵衛など、大澤家親類の豪農・商人に高額の融資をしていました。融資を受けた彼らはそれぞれの家政再建に取り組みましたが、同時に居村において困窮者救済仕法も実施しました。つまり、彼らへの融資は大澤家親類の経営救済であるとともに、彼らを核とした仕法の拡大をはかる意味もあったと思われます。こうして、片岡村から周辺地域へ片岡村仕法の縮小版が生み出されるネットワークが形成されていきます。そして、これが後の「克譲社」結成の基礎となっていきます。


【参考文献】
 2006年度春期特別展図録「幕末の村おこし竏駐{尊徳と片岡村・克譲社の報徳仕法」
 早田旅人「近世報徳『結社仕法』の展開と構造竏酎鰹B片岡村・克譲社仕法からみる地主仕法の再検討竏秩v(『関東近世史研究』63号 2007年)

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