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「相模川の生い立ちを探る会」 活動の記録

第232回 2012年5月20日 藤沢江ノ島・腰越



■ テーマ:江ノ島の波食台と葉山層群
■ コース:藤沢市江ノ島北西海岸~南西海岸~鎌倉市腰越漁港~小動神社

 今回は、春の大潮の干潮時に、江ノ島で大正関東地震の隆起を示すヤッコカンザシの化石を探して大正関東地震での隆起量を推定することと、江ノ島周辺の地層を観察することが目的でした。
 江ノ島大橋を渡り、橋のふもとから西側の海岸に回り込むと、葉山層群ではなく、三浦層群逗子層と思われる傾いた地層が露出していました。ここには海面付近にイワガキが、その上位にムラサキイガイが棲み分けて棲息していました。岩本楼北側の波食台は、葉山層群からなり、北東側の三浦層群との間には北東-南西方向の断層が推定されました。この波食台には、現生のヤッコカンザシが海面上20~30 cmの間に層をなして多量に棲息し、レイシガイが共生していました。ヤッコカンザシの下部にはエゾカサネカンザシも見られました。南西方向に進みながら、何ヶ所かで現生のヤッコカンザシを確認し、その高さを測ったところ、ヤッコカンザシは、海水面からおよそ60~80 cm上に棲息していました。平均海面からの高さに換算すると、0~-20 cmとなります。
 葉山層群は大部分が細粒砂岩からなりますが、北西海岸の中ほどで、砂岩層中に挟まれる細礫岩を観察しました。この礫層中の礫は、主に関東山地で見られるチャートや頁岩の円礫が含まれているのを確認し、葉山層群の堆積した場を考える上で、興味深いものでした。葉山層群には黒い筋状の逆断層が無数に走っているのも観察しました。また、葉山層群の海食崖の上は極めて平坦な侵食面をなして、関東ローム層が重なっている様子を観察できました。これは5~7 万年前に形成された隆起波食台で、かつて現在みられる様な波食台として形成されたものです。天台山の北側には古相模川により運搬された礫層が認められることから、この付近は河口部にあったものと推定されます。
 北西海岸の船着場付近には、海面から4 m程の高さに海食洞がありました。海食洞の中央には断層が走っており、断層に沿って海食洞が作られることがよくわかりました。
 岩屋前の南西海岸でも、海食崖の上に平坦な隆起波食台がよく観察できました。江ノ島の海成段丘は、隆起波食台(不整合面)の約2 m上位に箱根火山起源の約8 万年前のOP(小原台軽石層)が認められることから、ローム層の堆積速度を考慮すると、約10万年前の波食台になります。また、この隆起波食台の標高が50 mほどあるので、平均すると約0.5 m/1000 年の速度で隆起していることになります。
 外海に面した南西海岸では、海面より60 cmの高さの波食台の潮溜まりにヤッコカンザシが棲息しており、カンザシ(鰓冠[さいかん])を出しているところが観察でき、皆で歓声をあげました。北西海岸で海面付近にいたヤッコカンザシは、ここでは海面付近にはみられず、海面付近にイワガキがその上位にクロフジツボが多量に棲息していました。どうも、ヤッコカンザシは波が荒いところには少なく、外海側には海面よりも高い位置の潮だまりに部分的に棲息しているようです。ヤッコカンザシが内海側と外海側でどのように生息し、どのような特徴を持つのかの一端を観察できました。
 その後、南西海岸より船に乗り戻りました。片瀬東海岸では、前浜と後浜の地形や堆積物について観察しました。片瀬東海岸を東へ進み、腰越漁港では、上総層群浦郷層の泥岩を観察しました。ここでの層理面は東西走向でゆるい北傾斜でした。さらに小動神社の展望台から小動岬の隆起波食台がよく見えました。(S. M. )
                    

江ノ島大橋入口で江ノ島の段丘地形の説明を受ける 海岸で逗子層と、ヤッコカンザシや共生する貝類を観察
▲江ノ島大橋入口から、江ノ島の段丘地形を説明する。 ▲岩本楼北の海岸で三浦層群逗子層の露頭と、ヤッコカンザシや共生する貝類を観察する。
北西海岸の波食台で現生のヤッコカンザシを探す 密集する現生のヤッコカンザシ。口の形が特徴的
▲北西海岸の波食台に棲息する現生のヤッコカンザシを探す。 ▲密集する現生のヤッコカンザシ。棲管は青白く、口の形が特徴的である。
ヤッコカンザシの生息する海面からの位置を計測する 江ノ島を作る葉山層群を観察する
▲ヤッコカンザシの棲息する海面からの高さを計測する。 ▲江ノ島を作る葉山層群を観察する。
葉山層群の細礫岩。関東山地起源のチャートや頁岩を含む 断層に沿ってできた船着き場近くの海食洞
▲葉山層群の細礫岩。関東山地起源のチャートや頁岩がふくまれる。 ▲断層に沿ってできた船着場近くの海食洞。
南西海岸の波食台で潮間帯のフジツボなどの生物を観察 潮溜まりにヤッコカンザシを見つけ、のぞき込む
▲南西海岸の波食台で潮間帯のフジツボなどの生物を観察する。ヤッコカンザシはみられない。 ▲潮溜まりにヤッコカンザシを見つけ、棲息状況を覗き込む。
岩屋の上にみられる海成段丘面 腰越不動神社の展望台から不動岬の浦郷層の露頭を望む
▲岩屋の上にみられる海成段丘面。岩盤の上部が平坦で堆積物がないことから隆起波食台であることがわかる。 ▲腰越不動神社の展望台から不動岬の上総層群浦郷層の露頭を望む。


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