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「相模川の生い立ちを探る会」 活動の記録
第226回 2011年11月13日 鎌倉天園・大平山
■ テーマ:鎌倉の地層
■ コース:鎌倉市鎌倉宮~天園~大平山~今泉不動
今回の探る会は、鎌倉市天園~大平山の通称鎌倉アルプスで行われました。今回の主たる目的は、1)黒滝不整合(三浦層群と上総層群との境界)の確認、2)広域テフラである鎌倉ガーネットパミス(KGP)と朝比奈ガラス質火山灰層(AhG)の確認、3)上総層群浦郷層に含まれるシロウリガイ化石の観察でした。
2010年には、今泉の鎌倉カントリークラブ~天園~鎌倉宮へのコースで実施しましたが、今回は逆のコースを取り、南側の鎌倉宮から二階堂川沿いに、露頭観察をしながら天園に向かいました。ここでは、三浦層群逗子層・池子層~上総層群浦郷層と、古い地層から上位の新しい地層に向かって観察しました。
黒滝不整合は、有名な南房総の勝浦ボラの鼻の露頭など、房総半島の東部で顕著な不整合面が見られますが、西に行くにしたがい不明瞭になり、火山灰層序から対比しないと、わからなくなります。AhG(朝比奈ガラス質火山灰:田村ほか2010)は、浦郷層中に含まれている火山灰層で、近畿地方から房総まで確認されている広域火山灰です。
二階堂川付近の逗子層には、シルト岩層中に何枚もの火山灰が狭まれています。地質図(江藤1986;
松島・平田1991; 稲垣ほか2007)を参考に、不整合とAhG層準を、尺取虫さながらしらみつぶしに観察しました。白色の細粒火山灰を何枚か見つけましたが、残念ながら、後日の室内分析ではAhGではありませんでした。黒滝不整合についても、厚い礫層はなく、一部に礫を含む程度で、確認ができませんでした。
ハイキングコースをさらに上流側に登ると、粗粒な軽石を多く含む凝灰質砂岩層に、シロウリガイ化石が含まれていました。シロウリガイは貝殻が溶けて空洞(モールド)となっていました。二枚の貝殻がくっついているもの(合弁)も見られましたが、大部分は離弁であり、層理面に平行に入っていました。シロウリガイは、プレート収束境界など、硫化水素が湧き出す深海に生息するものです。ここでのシロウリガイ化石は凝灰質な地層や、クロスラミナ(斜交葉理)が発達する地層中に含まれています。化石の産状や岩相からは、これらのシロウリガイ化石が死後に再移動を被ったことや、粗粒な堆積物が供給される場所で強い流れの影響を受けて埋積したことが考えられるとのことです。
午後、大平山の北側から下り、ゴルフ場の下の上総層群浦郷層中に挟まれている広域テフラであるKGPを観察しました。KGPは、西丹沢起源のガーネットを含む軽石層で、径0.5
mm程度の赤黒い粒が、ルーペで確認できました。地層の走向・傾斜から考えても、天園の南側でも分布しているはずですが、確認できませんでした。今回の探る会は、様々な課題を残して終了しました。(S.
M. )
文献:
稲垣 進・西川達男・滿岡 孝・安野 信(2007) 神奈川県鎌倉市北東部の上総層群下部から発見された含ザクロ石軽石層(KGP)について.地球科学,
61, 143-148.
江藤哲人(1986) 三浦半島の三浦・上総両層群の層位学的研究.横浜国立大学理科紀要(第二類),33,107-132.
松島義章・平田大二(1991) 三浦半島の化石シロウリガイ類の資料.神奈川自然誌資料,
12, 77-84.
田村糸子・ 高木秀雄・ 山崎晴雄(2010) 南関東に分布する2.5 Maの広域テフラ:丹沢-ざくろ石軽石層.地質学雑誌,116,360-273.
▲鎌倉宮境内で、今回の観察の目的やポイントの説明する。 | ▲二階堂川沿いで、シルト岩の逗子層露頭を観察する。 |
▲泥岩層に挟まれる軽石層や炭酸塩岩を観察し、厚さを測定する(池子層)。 | ▲ハイキング道の両壁に露出する池子層に挟まれる火山灰層を調べる。 |
▲北にゆるく傾斜する池子層の泥岩露頭を観察する。 | ▲浦郷層の凝灰岩層中に挟まれた10㎝ほどの白色火山灰層。 |
▲天園で見られた三日月型に空洞化したシロウリガイ化石。 | ▲天園でみられた地層に平行なシロウリガイ化石。 |
▲シロウリガイ化石直下にある斜交葉理の発達した凝灰岩層。 | ▲シロウリガイ化石直下にある斜交葉理の発達した凝灰岩層。 |
▲ゴルフ場脇に見られる浦郷層中のガーネット火山灰を探す。 | ▲鎌倉の火山灰からみいだされたガーネット。 |
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