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「相模川の生い立ちを探る会」 活動の記録
第197回 2008年11月 9日 横須賀市秋谷
■ テーマ:葉山層群・矢部層と逗子層
■ コース:横須賀市秋谷立石~長者ヶ崎
今回は,2007年4月「付加体としての三崎層(三浦市剣崎)」に引き続き、付加体地質学の専門家である筑波大学大学院の小川勇二郎先生にご案内いただきました。今回観察したのは、矢部層群立石層(江藤ほか,1998では葉山層群鐙摺層の立石凝灰岩部層)と三浦層群逗子層(約600万年前)です。
最初に見たのは立石を構成する立石層です。立石でみられる凝灰岩は葉理が明瞭で、水中火砕流堆積物と推定されるそうです。露頭では風化により黄褐色に見えますが、新鮮ならば緑色に見えるそうです。この地層はフィリピン海プレートの海溝陸側斜面に溜まった堆積物が本州弧側に付加されたものと推定されています。立石には、立石凝灰岩層と三浦層群逗子層の境界部も露出していました。そこでは、前者の凝灰岩と後者の泥岩がシャープな境界で接していました、基底礫層はみあたらず、ここでの両者の関係は断層か不整合かよく分かっていないそうです。逗子層は、葉山層群を外縁隆起帯として本州弧側に形成された前弧海盆に堆積したと推定されています。
昼食後、秋谷の134号線沿いの海岸で、逗子層の脈状構造を観察しました。これほど密集した脈状構造を見るのは初めてで驚きました。脈状構造の謎を長年研究されてきた小川先生は、ついに今年になってその成因に迫る論文(Ohsumi
and Ogawa, 2008)を発表されたそうです。その最新の研究によると、地震・土石流・断層運動などによる短波長の横波によって、堆積物表層下で剪断作用が働き、堆積物粒子が定常波を発し、その共振現象によって堆積物深部に脈状構造が形成されることのことです。さらに最初にできた脈状構造の波長に共鳴してさらに間隔の小さい脈状構造ができるそうです。とても難しい理論でしたが、脈状構造の成因がようやくわかってきたようで、興奮を覚えました。
長者ヶ崎海岸では、逗子層のデュープレックスと低角逆断層を観察予定でしたが、落石の危険のため立ち入り禁止になっており、近づいて露頭を観察できませんでした。雨の降り始めた中で、小川先生の話を聞きながら、柵越しに逗子層の露頭を遠望することになりました。そのかわり、アルカリ岩(ナトリウム・カリウムなどアルカリ分を多く含む火成岩)と非アルカリ岩の違い、相模トラフのテクトニクス、月の成因に関連したジャイアントインパクト説(衝突起源説)、インドネシアのトバ火山(7.4万年前)の大噴火による最終氷期に突入した話題など、非常に多彩な話をお聞きすることができました。
(M. F. )
文献
Ohsumi T. and Ogawa Y. (2008) Vein structures, like ripple marks, are formed by short-wavelength shear waves. Journal of Structural Geology, 30, 719-724.
江藤哲人ほか (1998) 横須賀地域の地質. 地域地質研究報告 (5万分の1地質図幅),
地質調査所.
▲立石海岸に向かう(立石)。 | ▲立石層の凝灰岩からなる高さ12 mの立石。 |
▲矢部層群立石凝灰岩層と三浦層群逗子層の境界部について説明を受ける(立石)。 | ▲矢部層群立石凝灰岩層と三浦層群逗子層の境界部(立石)。 |
▲海岸沿いの三浦層群逗子層の露頭を観察(秋谷)。 | ▲逗子層中の脈状構造(秋谷)。 |
▲シルトを入れたケースを振動させ脈状構造を再現させて、形成過程の解説を聞く(秋谷)。 | ▲長者ヶ崎南側に露出する逗子層の露頭。 |
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