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「相模川の生い立ちを探る会」 活動の記録
第158回 2005年2月20日
多摩丘陵(八王子市御殿峠付近)
■テーマ:多摩川に流れていた相模川
■コース:八王子市みなみ野駅~御殿峠~絹の道~鑓水~多摩美大前
今回の目的は、多摩丘陵の段丘を作る御殿峠礫層を観察し、かつて相模川が多摩丘陵を八王子に流れていた証拠を確認することでした。
八王子市鑓水・御殿峠付近の多摩丘陵は多摩1面と呼ばれる地形面からなり、多摩Ⅰローム層をのせる50万年前頃の段丘と言われています。この多摩Ⅰ面は高度の異なる3つの地形面に分けられており、高位面・中位面・低位面と呼ばれています(大森昌衛監修,
1994)。地形図から読みとると、高位面は標高210~200 m、中位面は190~180
m、低位面は170~160 mほどです。いずれの面も西南西~東南東へ配列し、北側により高位の面が分布しています。したがって、かつて、相模川は、津久井から東流して多摩丘陵を八王子に流れていましたが、東流しながらも南へ流路を変えていったと考えられます。この段丘を作る礫層が御殿峠礫層です。
今回の観察で、段丘をつくる御殿峠礫層の基底高度は高位面が190 m、中位面が175
m、低位面が150 m程であることがわかりました。高位面は御殿峠~東京工科大学南~大塚山公園の丘陵をなし、中位面・低位面は絹の道に分布しています。
町田市相原町の御殿峠西の露頭では、高位面の御殿峠礫層下に上総層群の平山砂層が観察されました。中位面と高位面の相違はあまり明瞭ではありませんでした。
御殿峠礫層は厚さ10 m程とされていますが、今回の観察では確認できませんでした。低位面は礫層の高度から考えると厚さ10
m程ありそうです。この礫層の特徴は著しく風化が進んでいて、草削りで簡単に切れてしまうほどの腐り礫になっていることです。礫種は丹沢系の凝灰岩類(青~緑色)・トーナル岩類(白色)・安山岩類(褐~赤色)、小仏系の砂岩類(黄灰色)・頁岩類(黒色)、関東山地系のチャート類(白色)などから構成されていました。チャートや緻密な玄武岩質岩を除いて、礫が著しく腐っています。礫種組成から見て、この御殿峠礫層が相模川による河床礫層であることは疑う余地のないことがよくわかりました。この時期(中期更新世)の礫層は全国的に見ても、腐り礫になっているものが多く知られています。こうした腐り礫層は温暖・湿潤な気候のもとに長期間さらされていたものと考えられています。今回の観察では低位及び中位の御殿峠礫層が著しく風化が進んでいるように思えました。絹の道で見られた赤褐色化した礫層は、風化最上部の礫層と考えられます。礫層のインブリケーションも西→東へ向いているようでした。上位に載るはずの多摩Ⅰローム層は1箇所でしか観察できず、段丘面の違いによるローム層の相違については確認することができませんでした。TP(東京軽石)や立川・武蔵野ローム層は谷沿いや斜面沿いに数多く観察されました。特に立川ローム層は多摩丘陵全体の表面を覆っていました。
途中で生糸商人、八木下要右衛門の屋敷跡に建てられた絹の道資料館に立ち寄りました。通りに面した見事な石垣を生かし、当時の雰囲気を伝えるような建物でした。
今回の観察で多摩丘陵の概要が理解できました。開発が進んでいる多摩丘陵で、部分的とはいえ、御殿峠礫層の3つの段丘礫層が確認できたことは、大変有意義でした。(S.
M. )
参考文献:
大森昌衛監修(1994) 東京の自然をたずねて.日曜の地学,4, 92-99, 築地書館.
▲観察の目的やコースの説明を聞く(八王子みなみ野駅) | ▲平山砂層を覆う御殿峠高位礫層(町田市相原町) |
▲TPを挟むロームを観察する(御殿峠東 多摩養育園) | ▲3つの降下ユニットに分かれるTP(御殿峠東 多摩養育園) |
▲バイパス陸橋から南方の多摩丘陵を遠望する。(大塚山公園西 道了山跨道橋) | ▲御殿峠礫層に重なる多摩Ⅰローム層(御殿峠無線中継所付近) |
▲絹の道を歩く(大塚山公園南東) | ▲床面に露出した風化した御殿峠礫層を観察する(絹の道) |
▲絹の道資料館(八王子市鑓水) | ▲御殿峠礫層(低位面構成層)を観察する(絹の道資料館北) |
▲礫は腐れ礫となっており、基質が極めて少ない(絹の道資料館北) | ▲丹沢起源のトーナル岩礫を含む(絹の道資料館北) |
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