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「相模川の生い立ちを探る会」 活動の記録

第140回 2003年8月24日 早戸川


丹沢の海底火山を探る
 清川村早戸川沿いで丹沢の海底火山噴出物としてのグリーンタフを観察(外部講師)
 コ ー ス :早戸川流域(水沢川合流点〜早戸川上流)

今回は,伊豆衝突帯を研究している海洋科学技術センターの青池寛さんに,最新の研究成果をご案内していただけるというまたとない機会でした.
 伊豆衝突帯はフィリピン海プレートの北上に伴い過去の伊豆−小笠原弧が本州弧側に衝突・付加した場所です.巨摩・御坂・丹沢・伊豆地域には第四紀の火山体を除けば主として火山岩・火砕岩および礫岩・砂岩・泥岩などの砕屑岩からなる地質体が分布しており,前者はかつての伊豆−小笠原弧の火山体,後者は衝突時に生じた沈み込み帯を埋積した堆積物に相当します.今回はそのうちの丹沢地域の火山岩・火砕岩が対象です.丹沢地域では中新世における伊豆−小笠原弧の中上部の地殻断面も見えているとのことで,今回見たのは当時の伊豆−小笠原弧の海底火山の裾野から火口付近にかけてです.
 まず最初に見たのは,大沢層不動尻凝灰岩部層(13-12Ma)の流紋岩質軽石質の海底火砕流堆積物です.ここでは,堆積物下部での上方粗粒化や二重級化層理がみられ、海底火砕流堆積物の特徴が非常に模式的にみられました。下面のソールマークから古流向を求めると,南の丹沢本体方向から運ばれたものが多いとのことです.噴火がない時には泥岩が堆積しており,大きな噴火は1回/2万年程の割合だそうです.
 次に見るはずだったのは,唐沢川層(14-13Ma)の玄武岩〜安山岩質タービダイトです.ここでは一枚一枚のタービダイトは上方細粒化していますが,大きく見るとタービダイトは次第に粗粒で厚いものになる傾向があるそうです.また,もっと大きく累層レベルでは上方細粒化しているとのことです.これらのことから,青池さんは,1つの火山体は成長していき,海底扇状地が発達するが,次第に火山体の成長度が弱まり,全体として火山体は削られ衰退していくと解釈しています.
 次に見たのは,本谷川層最上部(15.5-15Ma)の玄武岩質ハイアロクラスティックな角礫岩で、海底火山の火口近くで堆積したものです.レキ(黒)とマトリックス(緑)の見た目の色は全然違いますが,同じものだそうです.これは,ガラスの量が多い部分は大きく破砕され,また変質を受けやすいことによるそうです.また,水冷破砕の特徴として,レキが多角形に割れていること,急冷縁が見られることなどが述べられました.
 次に見たのは,本谷川層下部(約16.5Ma)の安山岩質ハイアロクラスタイトです.安山岩質のものはレキの色が灰色なので区別できます.ここで見られる安山岩は,高Mg安山岩という特殊な岩石です.このような岩石は,始新世に小笠原諸島で見られるボニナイトや中期中新世に西南日本で見られるサヌカイトなどが代表的です.このような岩石ができるには,1)マグマ形成場の圧力が低い,2)含水率が高い,3)マントルウェッジが通常より高温であるなどの条件が必要であるとのことです.丹沢や西南日本の高Mg安山岩の活動や,日本海や四国海盆の拡大が起こっていた17-15Maの時期には日本列島周辺下のマントルは熱構造的に特殊な状態であった可能性が高いとのことです.
 次で見たのは,四十八瀬層上部(約17Ma)の枕状溶岩です.これらの古流向を求めると,南西からのものが卓越するとのことでとのことです.また青池さんは,枕状溶岩→上方細粒化する火砕岩→枕状溶岩というシークエンスから,リフト形成→溶岩流出→火砕岩が埋める→リフト形成という履歴を推定しています.この付近の玄武岩は,その化学組成が背弧海盆型玄武岩(BABB)に類似したものと,島弧ソレアイト的なものが見られるとのことです.前者と後者は化学組成や同位体比が異なるので,リフト起源と島弧起源の2種類のマグマが起源となっているかもしれないとのことです.四国海盆の拡大が終了した後の15-13Maに伊豆−小笠原弧で再び背弧拡大した可能性があり,前者はこれに関連しているかもしれないとのことです.
 今回は中期中新世における伊豆−小笠原弧の海底火山の火口付近から裾野までを概観でき,またそれが現在のどのような場所に当たるのかもイメージできました.さらに,丹沢の火山活動は,日本列島周辺の中期中新世における特殊なマグマ環境や伊豆−小笠原弧の背弧拡大などテクトニックなセッティングの影響を受けていることもわかりました.以上のような最新の研究成果に直に触れることでき,非常に勉強になりました.(M.F.)

自破砕溶岩の説明1 岩石の採取
▲講師に海底火山の自破砕溶岩について説明を受ける(早戸川上流) ▲岩石サンプルをハンマーで採集する
タービダイト 自破砕溶岩の説明2
▲海底に起きた乱泥流堆積物の最上部に出来た細かな縞模様をなす地層 ▲自破砕溶岩の出来方について実物を見ながら説明を聞く
枕状溶岩1 川を渡る
▲海底火山の溶岩流を示す枕状の構造を持つ溶岩を観察する ▲奥の秘境の露頭を訪ねて川を渡る
緑簾石球顆をもつ玄武岩 枕状溶岩2
▲溶岩中にできたガスの気泡を後から埋めて、緑簾石という緑色の玉が出来ている ▲枕状溶岩は海底に溶岩が流れるとき、歯磨きチーブから押し出されるように、枕が積み重なる

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