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相模川の生い立ちを探る会 第235回 2012年9月 「観音崎の三浦層群」

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「相模川の生い立ちを探る会」 活動の記録

第235回 2012年 9月1日 横須賀市鴨居港・観音崎



■ テーマ:観音崎の三浦層群
■ コース:横須賀市鴨居港~観音崎自然博物館~観音崎~灯台下~横須賀美術館裏

 今回は堆積学のご専門である横須賀市自然・人文博物館の柴田健一郎先生にご案内いただき、観音崎の三浦層群逗子層・池子層を観察しました。まず、観音崎バスターミナルで三浦層群の逗子層と池子層の堆積物について説明いただきました。観音崎付近にみられる三浦層群は本州弧の前弧海盆で堆積したと考えられている地層で、主に泥岩からなる逗子層(600万年~400 万年前)は水深2000~3000 mの深海で、主に凝灰質な砂質泥岩からなる池子層(400~250 万年前)の下部は水深1000 m以上の深海で、池子層の上部は水深150~300 mの比較的浅い海で、それぞれ堆積したと考えられているそうです。
 はじめに、鴨居港東側の岬で、逗子層の露頭を観察しました。厚さ60 cm程の泥岩層と、厚さ10 cm程のスコリア層の互層の露頭が続いていました。ブーマシーケンス図(Bouma, 1962 によって区分された砂泥互層の級化構造にみられる5 つの堆積相)を基に混濁流堆積物(タービダイトとも呼ばれ、砂や泥を多く含んだ密度の高い流れが斜面を流れ下って堆積した堆積物)の解説をしていただきました。シルト層には、S 字状の脈状構造(ベインストラクチャー)が多数見られました。脈状構造は地震によってできる構造で、地層面にほぼ垂直な方向に力が加わることによって、地層に水平な方向への引張り力で生じたものとの説明がありました。
 岬の先端部では、逗子層のスコリア層中に火山豆石が入っているのが見られました。火山豆石は、火山噴煙の中で火山灰が凝集してできたもので、給源の火山体は伊豆弧と推定されているとのことです。
 県立観音崎公園ビジターセンター東側の海岸にみられる逗子層の露頭では、砂質部にコンボリュート層理がみられました。これは、堆積物がまだ固結していない状態の時に、力が加わってできる変形構造ということです。またその近くの露頭では、厚さ約10 cmの細粒スコリア層が水平に近い共役(同じ力によって生じた2 方向)の逆断層により切断され、同じスコリア層が二重に重なって、デュープレックス状になっている様子が見られました。
 観音崎自然博物館東側の岩場では、クリーム色の泥岩からなる逗子層と、黒っぽいスコリア質の凝灰岩を挟む砂質泥岩からなる池子層の境界を遠望しました。観音崎海岸へのトンネル東側出口で、池子層下部の露頭を観察しました。この露頭では局所的に炭酸カルシウムが濃集して硬くなった炭酸塩コンクリーションから、419~380 万年前の放散虫化石がみいだされていると解説をいただきました。観音崎灯台下の北側海岸では、大きなシルト岩のブロックがスコリア層の中に取り込まれている乱堆積層を観察しました。この乱堆積層はChaotic堆積物と呼ばれ、海底地すべりなどによって一度堆積した堆積物が再運搬・移動して形成されたと考えられるとのことです。遊歩道では、縄文海進で形成されたと考えられる海食洞を観察しました。
 横須賀美術館裏では、池子層の大露頭を観察しました。向かって右側では地層がほぼ水平に見えるのに対し、左側では地層がほぼ垂直に立っていました。不思議な地層の成因を考えて本日の巡検を終えました。
 最後に森先生から、同じ前弧盆で堆積したにもかかわらず、鎌倉などの逗子層と比べて、観音崎の逗子層には逆断層がいくつもあり、同じ層が何回も積み重なっているデユープレックス状の構造など、付加体のような構造も多いとまとめていただきました。今回は堆積学的な見方で地層の観察ができました。柴田先生へ感謝し、横須賀美術館にて解散しました。 (K. K. )

文献:
Bouma, A. H. (1962) Sedimentology of some Flysch deposits: A graphic approach to facies interpretation. Elsevier, 168 pp.

                    

観音崎バス停で柴田先生より巡検の説明を受ける 逗子層の泥岩とスコリア層の露頭を観察する
▲観音崎バス停で柴田先生より巡検の説明を受ける。 ▲逗子層の泥岩とスコリア層の露頭を観察する(鴨井港東)。
混濁流とタービダイドの模式図 泥岩中のS字状脈状構造(ベインストラクチャー)
▲混濁流とタービダイドの模式図。 ▲泥岩中のS字状脈状構造(ベインストラクチャー)(観音崎大橋南)。
逗子層中のスコリア層にみられる火山豆石 地層がまだ柔らかい時に変形したコンボリュート層理
▲逗子層中のスコリア層にみられる火山豆石(観音崎大橋南)。 ▲地層がまだ柔らかい時に変形したコンボリュート層理(逗子層・県立観音崎公園ビジターセンター東)。
1枚のスコリア層が低角な逆断層で二重に重なる 池子層の基底部付近を観察する
▲1枚のスコリア層が低角な逆断層で二重に重なっている(逗子層・観音崎自然博物館南)。 ▲池子層の基底部付近を観察する(観音崎自然博物館南)。
シルト岩ブロックを多量に含む乱堆積層 隆起した海食洞(観音崎灯台北)
▲シルト岩ブロックを多量に含む乱堆積層。(池子層・観音崎灯台北)。 ▲隆起した海食洞(観音崎灯台北)。
観音崎灯台と、観音崎海水浴場の海岸に露出する池子層 横須賀美術館裏の池子層の大露頭
▲観音崎灯台と、観音崎海水浴場の海岸に露出する池子層の露頭。 ▲横須賀美術館裏の池子層の大露頭を観察する。左側で地層が直立する。


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