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発見!ひらつかの民俗 第5回 飯泉観音のだるま市(2009年12月17日)

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発見!ひらつかの民俗


第5回 飯泉観音のだるま市(2009年12月17日調査)

 小田原市飯泉勝福寺の飯泉観音は、坂東三十三観音の第五番札所として有名な真言宗の古刹である。飯泉観音の歳の市は、関東で最も早く開かれるだるま市として知られる。
 飯泉観音に近付くにつれ、だるまを入れたビニール袋を手に提げた人を見かけるようになる。門前の通りに露店が軒を連ねる。山門を入ると、お馴染みの赤い相州だるまを売る店が立ち並ぶ(12/18付「読売新聞」朝刊によれば、30店のだるま商が出店)。
 飯泉観音で売られるだるまのほとんどが平塚産である。平塚市では本家長嶋達磨店、長嶋福ダルマ物産、荒井だるま屋の3軒がだるまを製造している。製品を仕入れただるま商が店を出したり、製造しただるま店が直々に売ったりしている。

境内のようす 本家長嶋達磨店のだるま
▲境内のようす ▲本家長嶋達磨店のだるまを売る店

 だるまといえば、関東では群馬県高崎市が有名で、埼玉県川越市、越谷市、春日部市、東京都多摩地方などでも製造している。しかし、他都県のだるまを出してもあまり売れないという。逆に相州だるまを東京都のだるま市へ持っていってもやはり売れない。長年親しんできた顔つきのだるまを誰もが買い求める。毎年同じ場所で同じ店から買う人も多い。だから地元のだるまが売れる。群馬県出身者の中には、ふるさとのだるまへの愛着が強く、毎年高崎市から注文で取り寄せる人もいる。
 飯泉観音で相州だるま以外を扱う店は2軒のみ。埼玉県鴻巣市産のだるまを売る小さな店があった。鴻巣のだるまは張り子ではなく、ゴフンを練り固めて造るので重たいのが特徴である。

平塚市の長嶋福だるま物産 平塚市の荒井だるま屋
▲平塚市の長嶋福ダルマ物産(左) ▲平塚市の荒井だるま屋

 だるまを物色して歩いていると、「だるま、いかがですかー」と方々から声がかかる。値段はだるま商組合が協定しているのでどの店も同じ。小さなだるまはなかなか値引きに応じてくれない。景気の良さそうな店で5号の相州だるまを言い値の2800円で買い求めた。「ご商売ですか」と聞かれ、「はぁ、まぁ」と言い淀んでいると、「家内安全、無病息災、商売繁盛」「ヨヨヨイ ヨヨヨイ ヨヨヨイ ヨイ」と手締めをしてくれた。手締めに合わせて火打ち石を打って火花を散らす。暗くなるにしたがい、境内は参詣者であふれ、この手締めの音がますます賑やかになる。

売買が成立し手締めをする だるまのお焚き上げ
▲売買が成立し手締めをする ▲だるまのお焚き上げ

  飯泉観音のだるま市では、だるまの開眼供養をしてくれる。購入しただるまを観音堂へ持っていき、名前を伝えて差し出し、寸志を納める。朱塗りの三方には志納された千円札がたくさん載っている。2,800円のだるまに1,000円の志は奮発しすぎではないかとと一瞬ためらったが、縁起物なので思い切って納める。
 通常のだるまは購入後に自分で片眼を入れて祈願し、神棚などに一年間飾る。納める前に感謝を込めてもう一方の眼を入れる。飯泉観音では、だるまの左眼へ僧侶が筆で梵字を書いてくれる。この梵字は「マ」と読み、太陽を意味するという。また、堂内ではだるまの絵馬、だるまのお守り、だるまの手拭いも授与されていた。

観音堂での開眼供養 開眼した5号だるま
▲観音堂での開眼供養 ▲開眼した5号だるまと、左は鴻巣市産の1号

 こうして関東最初のだるま市は始まった。これから県内各地の歳の市でお飾りなどの正月用品とともにだるまが売られる。市内でも21日から30日まで連日のように歳の市が立つ。正月の神社仏閣でも売られ、1月28日の川崎市麻生区の麻生不動が納めのだるま市となる。
 皆さんのご家庭で平塚産の相州だるまが福を招きますように。 

 

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