6 里山の四季


●大磯丘陵に残る里山
 平塚市西部の吉沢、土屋地区から大磯町、二宮町、中井町などの大磯丘陵にかけては、県内でも里山環境のよく残されている地域です。谷間には谷戸田と呼ばれる水田が耕作され、斜面は雑木林、台地の上は畑として利用されており、谷戸の入口や斜面を背中にして集落が配置されています。こうした里山は長年にわたる農業的な利用で形作られてきた景観で、数百年にわたって維持されてきたと考えられます。
 里山は、人々の暮らしの場であると同時に多くの動植物の生活の場ともなってきました。水田は、シュレーゲルアオガエルやアカガエルの仲間が産卵に利用し、カエルを餌にするヤマカガシのような爬虫類やサシバのような猛禽類が多く見られます。水路には、ホトケドジョウやカワニナが生息し、ゲンジボタルが集団で発生する場所も少なくありません。雑木林にはキンラン・ヒトリシズカのような多くの野草が花咲き、クヌギの樹液にはカブトムシやノコギリクワガタ、オオムラサキやゴマダラチョウが集まっていました。
 しかし、燃料革命によって薪や炭が石油にとって替わられたために雑木林の手入れがされなくなり、また農家の人手不足によって耕作されない農耕地が増えてきました。大規模な開発によって失われた場所も多く、里山の景観が大きく変わりつつあります。
 今、私たちは里山の意義をしっかりとらえ、どうすればその豊かな環境を保全していくことができるか、考えるべき時にさしかかっているということができるでしょう。

谷戸の景観


定期的な伐採によって維持されてきた雑木林

●春の里山
 里山に春の訪れを告げるのは、早春の谷戸で行われるニホンアカガエルとヤマアカガエルの産卵です。4月に入るとシュレーゲルアオガエルのクリリコロコロという鳴き声が谷戸に響き、にぎやかな季節を迎えます。 その頃、雑木林では木々の新芽が開き、林床ではウグイスカグラやモミジイチゴのような低木、タチツボスミレ・カントウタンポポのような草が花を開きます。ミヤマセセリが姿を現すのもこの季節だけです。

カントウタンポポ

●夏の里山
 初夏、谷戸田の水路のまわりでは、オニヤンマ・カワトンボ・シオヤトンボなど多くの種類のトンボが出現します。夜になればゲンジボタル・ヘイケボタルの光の舞いも見られます。 雑木林では、ホタルブクロやヤマユリが咲き始めます。ヤマガラやキビタキがさえずり、サシバやオオタカも里山で子育てを行います。盛夏になればミンミンゼミやヒグラシ・ツクツクボウシなどセミの声が響きます。

セミの羽化

●秋の里山
 秋の野道には、ノコンギク・シラヤマギク・リュウノウギクなど紫や白の野菊が次々に咲き乱れます。晩秋にはリンドウやヤクシソウの花も目立ちます。 秋の夜には、クツワムシ・ハヤシノウマオイ・マツムシなどの鳴く虫もにぎやかに鳴き競います。 谷戸田の稲刈りがされる頃、エゾビタキ・コサメビタキなど南に渡る小鳥たちがミズキの実を食べに集まってきます。

クズの花

●冬の里山
 大磯丘陵の里山から見える丹沢の山並みが白い雪をかぶる頃、里山には霜がおり、冬枯れの景色におおわれます。しかし、ヒガンバナ・ジャノヒゲのように常緑の草も多く、日だまりではホトケノザのような春の花がちらほら咲いていることが多いものです。 谷戸にはカシラダカ・ツグミのような冬鳥が多く、ベニマシコやカヤクグリも姿を見せます。暗くなってフクロウの声が聞こえれば春はすぐそこです。

冬の里山

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