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最終更新 2004年3月

幻の湘南火山帯
 


■富士火山帯
 富士火山帯という言葉は誰でも知っていることでしょう。富士山から伊豆半島、伊豆諸島にかけて、箱根火山・湯河原火山・天城火山・伊豆大島・三宅島など、火山が列をなしているものをいいます。かつて学校で教わった、千島・那須・鳥海・富士・乗鞍・白山・霧島火山帯と日本の火山を7つの火山帯に分ける言葉は、最近の自然科学では使われなくなり、現在の学校の教科書には載っていません。それは、プレートテクトニスの進展によって、こうした火山帯の区分には火山を作るマグマの成分や特徴が反映されているわけではなく、意味がないことが明らかになってきたからです。最近では、太平洋プレートの沈み込みによって生じる東日本火山帯と、フィリピン海プレートの沈み込みによる西日本火山帯とに二分されています。
■湘南火山帯とは?
 この火山帯に関係して、湘南火山帯という言葉があります。この湘南火山帯は、東京大学地震研究所の教授であった松田時彦氏が1962年に提唱したものです。三浦半島や房総半島には、おびただしい大量の火山噴出物が地層中に挟まれており、火山から10km程にしか存在しないといわれる火山豆石という特異な噴出物も何枚も含まれています。火山豆石は火山灰からなる豆状の噴出物で、噴火の際の雷雨などにより空中で形成されるといわれます。この三浦・房総にある火山噴出物の給源火山を、東京湾内に考えた人もいましたが、松田氏は、海底地形から相模湾内の沖ノ山付近と考え、湘南火山帯と名付けました。
 その後、地質調査所の木村政昭氏は、相模湾の海底から火山岩(溶岩類)を採取して、1967年に公表した相模湾の海底地質図の中で、湘南火山帯の火山の位置を示しました。一方、東京大学海洋研究所の藤岡換太郎氏は、この湘南火山帯を解明するため、相模湾内の火山と考えられた場所で、サンプルを採取しましたが、火山噴出物は見つかるものの、火山岩を見いだせませんでした。
■幻の湘南火山帯
 三浦や房総半島にある厚い火山噴出物や火山豆石は、明らかにかつて湘南の相模湾内に、幻の湘南火山帯があったことを示すものなのです。大磯海岸に見られる大磯層も、同時期の地層で、同様な火山噴出物を多量に含んでいます。しかし、湘南火山帯の証拠を現在の相模湾内に見いだすことはできません。三浦や房総半島、大磯の地層は、かつての湘南火山帯近傍のフィリピン海プレート上に堆積したものが相模トラフというプレート境界を越えて本州側に付加したものなのですが、その供給源となった火山は付加せず、どこへ行ってしまったのでしょうか。
 現在は、伊豆諸島に連なる火山帯を作っている伊豆弧は、かつてどこに位置していたのでしょうか。湘南火山帯はかつての古伊豆弧の火山帯として存在していたことは間違いありません。かつての火山近傍の海底に堆積した堆積物が本州に付加し、見ることができるのに、給源の火山体はそれと別行動をとって何故、相模トラフで沈み込んでしまったのでしょうか。丹沢は古伊豆弧の火山体が付加しているのに。そのメカニズムについていくつかの仮説が出されていますが、未だ、明らかになっていません。

参考文献 小川勇二郎他(1992) 月刊地球号外5号

荒崎の火山豆石 明鐘岬の火山豆石
▲三浦半島荒崎で見られる火山豆石 ▲房総半島明鐘岬で見られる火山豆石
荒崎の三崎層 明鐘岬の三浦層群
▲湘南火山帯からもたらされたスコリア層を多量に挟む三崎層(三浦市荒崎) ▲スコリア層を多量に挟む三浦層群(鋸南町明鐘岬)
火山灰層を頻繁に挟む大磯層 大磯層中の軽石層
▲火山灰層を頻繁に挟む大磯層(大磯町西小磯) ▲大磯層中に挟まれる軽石層。どこからもたらされたものだろうか。
相模湾の海底地形模型 大島付近の海底地形
▲相模トラフ北側にはいくつもの海丘があるが、火山性のものではない。 ▲大磯や三浦の地層は、現在で言えば大島の東のプレート境界のトラフを埋めた堆積物だったらしい。

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