今、天文界では2つの彗星が注目されています。今年5月頃に肉眼で見えるくらい明るくなる彗星で、ニート彗星、リニア彗星と呼ばれています。プラネタリウムではこの2つの彗星をくわしく解説し、実際に見るときの注意点などをお話しします。
彗星の名前 「ニート」と「リニア」
「百武彗星」「ヘール・ボップ彗星」といった彗星の名前は、通常、その彗星を発見した人の名前が発見順に3人までつけられることになっています。しかし、リニア彗星、ニート彗星という名前のつけられた彗星はたくさんあります。リニア、ニートというのは人の名前ではなく、リニア彗星はアメリカ・リンカーン研究所の小惑星サーベイプロジェクト(LINEARプロジェクト)で全天を自動掃天する中で発見され、ニート彗星はアメリカ・ジェット推進研究所の小惑星捜索プログラム(NEATプログラム)によるもので、やはり自動掃天で撮影した画像から発見されたものです。今回、近づきつつあるのは、ニート彗星(C/2001 Q4 NEAT)と、リニア彗星(C/2002 T7 LINEAR)という番号の2彗星です。
彗星の姿かたち
彗星の最大の特徴は尾にあります。明るく長い尾を伸ばした大彗星の姿ほど素晴らしいものはありません。まさに「ほうき星」そのものの姿です。尾は、核から放出されたガスやチリが長く伸びて作られます。ガスは太陽から吹きつける太陽風によって太陽の正反対側にほぼ直線状に伸びていき、イオンテイル(タイプIの尾)と呼ばれる尾になり、チリはいくつかの要素が絡み合って曲線状に伸び、これをダストテイル(タイプIIの尾)と呼びます。
ニートとリニアのふるさと
彗星のうち、周期が数百年以上の長周期彗星は、太陽から数万天文単位もの遠方に球核状に広がるオールトの雲と呼ばれる領域からやってきたと考えられています。ニート彗星は遠日点までの距離が54000AU、0.86光年という途方もなく遠い距離で、彗星のふるさと、オールトの雲付近になるのです。リニア彗星もニート彗星と同様に、遠日点までの距離が40000AU(0.63光年)にもなり、こちらもオールトの雲からやってきた彗星ではないかと考えられます。
太陽に近づいて彗星となる
彗星は通常、中心部に輝く核と、それを取り巻くボーッとしたコマ、尾から構成されています。核は、彗星の中心部に輝く固体部分で、直径数キロメートルほどの小さな天体です。コマは、核から吹き出したガスやチリが核を取り巻いているもので、大きさは10万~100万キロメートルにもなります。コマは太陽からのエネルギーの影響で放出されるものなので、彗星が遠くにあるときにはほとんど見られません。コマや尾は通常の場合、彗星が太陽から2~3天文単位くらいまで近付くと発生するようです。
ニートとリニアの見え方
最初に見頃になるのはニート彗星で、5月4日頃より、日没後の西の空で見られるようになります。日を追うごとに日没時の高度が高くなり、見やすくなりますが、同時に光度は落ちてゆきます。リニア彗星は、5月22日頃より日没後の西の空で見られるようになり、ニート彗星と同時に観測する事が可能になります。こちらも日を追うごとに高度が上がりますが、やはり光度は落ちていきます。
5月下旬での光度は、ニート彗星が4等台前半、リニア彗星が3等台後半~4等台前半と予想されています。尾の長さは、ニート彗星が最大30度程度(5月8日頃)、リニア彗星が35度程度(5月23日頃)と予想されています。
彗星に接近した探査機スターダスト
1月2日、NASAの彗星探査機スターダストが、ウィルド第2彗星に接近し、彗星のダストサンプル採取を行いました。また、ウィルド第2彗星の核からわずか500kmの位置からの核の表面の撮影にも成功しました。
彗星探査機スターダストは、1999年7月に打ち上げられました。その使命は彗星の物質を採取して地球へ戻ってくる「サンプルリターン」という計画です。彗星から噴出するダストをラケット上の採集装置でとらえ、カプセルに収めて2006年1月15日に地球へ戻す予定です。彗星のダスト内にとじこめられた物質の化学的、物理的な情報は、太陽系の惑星を形成している物質の起源や初期の惑星形成の記録が残されているもので、これにより、彗星についての直接的な情報や、太陽系初期の歴史についての理解がより深まることになります。2年後、サンプルが無事に地球へと戻ってくることを期待しましょう。