わたしたちは「相模川流域の自然と文化」をテーマに活動している地域博物館です

永久凍土の地形

火星大接近 2003 (解説 新しい火星像)

永久凍土の地形

平成15年秋季特別展図録 平成15年10月発行

吉岡美紀(国立極地研究所)

平原の多角形模様
 マーズ・グローバル・サーベイヤー画像のMOC2-P50(下図)に写っているのは、火星の平坦な地表面の一部に見られる多角形模様です。これは、地球の高緯度地域の平原で見られるアイスウェッジポリゴンに似ています。アイスウェッジポリゴン(別名、ツンドラポリゴン、割れ目多角形土、タイミールポリゴン等とも言われます)は、地表面に溝で作られた多角形の模様で、溝の部分は氷でできています。横断面を見ると氷がくさびの形で地下に入っているので、この氷のことをアイスウェッジと言います(ice= 氷、w e d g e =くさび、p o l y g o n =多角形)。アイスウェッジの多くは、幅1縲怩Sm、深さ3縲怩P0m程度ですが、シベリアでは、深さ50mを超えるものも観察されています。MOC2竏窒P50に見られる火星の多角形の一辺は、おおよそ100縲怩Q00mです。地球上のアイスウェッジポリゴンの多くは、一辺の長さが15縲怩S0mですが、大きいものでは100m以上になるものもあります。

火星表面の多角刑模様MOC2-150 NASA/MSSS

永久凍土
 地球のアレスポリゴンは、永久凍土のある地域にできます。含まれる水分が凍っている土のことを凍土と言い、短期間凍土、季節凍土、永久凍土に分類されています。短期間凍土には例えば関東地方でも見られる、日周期で凍結・融解する霜柱も含まれます。凍土は夏季に気温が上昇すると地表面からある深さまで融けて、冬季には再び凍ります。夏季には融けきってしまう凍土を季節凍土、夏季にすべて融けきってしまわないまま再び冬を迎える凍土のことを永久凍土と言います。永久凍土の上部にあって、夏季に融ける部分を活動層と言います。永久凍土は、シベリア、アラスカ、カナダ北部、チベット高原などに分布し、全陸地面積の1 4 %を占めています。永久凍土は、現在より気温の低かった氷期に形成されたと考えられます。零下数十度という低温になる場所では、氷河に覆われていない地表は、氷河に覆われて直接冷たい大気に接触することがない地表より冷やされます。氷期に氷河に広く覆われていなかったシベリアでは、地表から冷やされて永久凍土の厚さが地下1,000m以上になる地点もあると観測されています。
 永久凍土地域で目立つ地形としてピンゴがあります。ピンゴは地下の氷が集積し地面を押し上げることによってできる丘のことで、最大のものは高さが60mあります。丘の頂上がつぶれるとクレーターのような形になることもあります。

アイスウェッジ断面図
氷がくさび形に地下に入りこんでいます。

アイスウェッジポリゴン
 永久凍土はさらに水平・垂直方向への分布から、連続的、不連続的、点在的の三つに分類されます。アイスウェッジポリゴンは連続的永久凍土帯のうち、平坦で排水の悪い低地にできます。連続的永久凍土帯の分布は、土質によって変化するのですが、おおよそ年平均気温がマイナス6℃以下の地域になります。
 アイスウェッジポリゴンがどのようにして形成されるのかは、まだわからない点も多いのですが、以下のように説明されています。冬季の低温で凍土が収縮し、地面に割れ目ができます。春暖かくなって地表に融け水ができます。この融け水が割れ目に入ってくると、割れ目の下の方は凍土のままなので、そこで再凍結します。再凍結した位置が活動層の下面より下の場合は、夏でも融けないため、氷はそのまま夏を越します。次の冬にはまた前回と同じ場所(氷のある場所)が割れ、春、融解水が入り込んで凍結します。これを繰り返して割れ目を埋めている氷が成長していくため、割れ目は広がっていきます。氷ができたために行き場を失った割れ目の周囲の土は上方に持ち上げられて、地表から見るとアイスウェッジの両側に土手をつくります。アイスウェッジが、多方向につくられると、地表面には多数の多角形模様が見られるようになります。これがアイスウェッジポリゴンです。
 アイスウェッジの氷が、風に運ばれてきた細かい砂や土で置き換えられたものもあり、これは過去に形成されたアイスウェッジの跡と考えられています。右の写真は地球の南極ドライバレーという地域で見られるそのようなポリゴンです。ドライバレー(Dry valleys=乾燥した谷)は、年平均気温マイナス20℃の寒く乾燥した地域で、火星の環境に近い場所、と言われています。


地球の南極ドライバレーにある多角刑模様 写真:国立極地研究所 森脇喜一


アイスウェッジポリゴンの生成条件
 アイスウェッジポリゴンが形成されるために、現在、必要と考えられている条件をあげると、永久凍土が存在すること、低温であること、平坦な地形であること、そして、水が固体(氷)の状態でも液体(水)の状態でも存在すること(水が凍結・融解を繰り返すこと)、となります。マーズ・オデッセイの観測から、火星の地下浅いところに水素が存在していることが明らかになりました。液体の水はまだ直接、発見されていませんが、火星に存在している、または過去に存在していた可能性が高くなってきました。
ページの先頭へ