火星大接近 2003 (火星観測史)

天動説による火星の動き

平成15年秋季特別展図録 平成15年10月発行

 火星は、古代中国では「蛍惑」と呼ばれました。螢惑にはまどわすという意味があります。。望遠鏡もなく、その運動の法則も知られていない時代、火星はその複雑な動きが注目される星でした。
 ギリシャ・ローマ時代の天文学を集成したアレキサンドリアの学者プトレマイオスは、その動きの解釈に円という図形の組み合わせを用いました。まず、地球の周囲を巡る、ただし中心を地球からずらした円(離心円)置き、さらに、その離心円上を動く仮想点を中心にした円周(周転円)上を惑星が動くとしたのです。これにより、逆行運動を含む惑星の位置の変化を説明したわけです。周転円をいくつか重ねあわせるなどして、複雑な運動が観測値に精密に合うようにされていました。

恒星の中の火星の動き
左:天文ソフト「ステラナビゲータ」(アスキー・アストロアーツ)で描かせた恒星の中の火星の動き。
右:同じソフトで、地球を常に画面の中央に置くような設定で表示させた。
  火星(オレンジの曲線)は地球に接近を繰り返すが、毎回接近距離に違いがある。
 


天動説の火星の動きをたどって見ると
  点Pは離心円O(中心はO)上を移動する。プトレマイオスの論では、円の中心Oをはさんで地球と反対側にある点E'を設定し、PはE'に対して等しい角速度で運動する。そこでPの速度は一定ではない。火星は中心Pとともに移動する周転円Qの上を一定の速度で動く。この理論をパソコンにプログラムして(ただし近日点の方向は考慮していない)、火星の位置を描かせた軌跡が右の図。ケプラー法則に基づいて計算する上の図とよく似ており、プトレマイオスのモデルがよくできていたことがわかる。