「囃子」は「ハヤシ」「バカッパヤシ」と呼ぶ所が多く、「オハヤシ」「マツリバヤシ」などともいう。正式には「屋台」や「屋台囃子」という。「屋台」は、神輿が巡行する時に神を送迎するための曲といわれ、村内曳行の時に叩かれたという。
巡行や競り合いで叩く最も一般的な曲で、平塚の囃子太鼓を代表する曲である。競り合いではひたすらこの曲を叩き続ける。力強く荒々しく、変化に富み、叩き手の力量が顕わにされる曲である。 ハヤシの前奏曲として「ブッコミ」「ブッツケ」「打ち込み」というツケのソロが入る。一例として中原中宿の「打込」の符丁を紹介する。 テケテンテレン テケテンテンテンテンテンテレスク テンテンテンテレスク テケテンテレスクテンテレスク テケテンテレスクテンテレスク に続き「ソーレー」と声を掛けて、「囃子」の地に入る。「囃子」は豊田西町のツケを挙げる。一部、オオドの「ドコ」「ドン」を含めてある。 テレスクテンドコテレスクテンテレ スクテンテンテンテンテンテンテケ テンテレスクテンドンテンテケ テンテレスクテンテレスクドコ テンテレスクテンドンテンテケ テンテレスクテンテレスクドコ テンテレスクテンドンテンテケ テンテレスクテンドンテンテケ テンテンテンテンテンテンテケ テンテレスクテンドンテンテケ テンテレスクテンドンテンテケ テンテレスクテンドンテンテケ テンテレスクテンドンテンテケ テンテレスクテンドンテンテケ テンテレスクテン テンテケドン テンテレスクテンドンドン(そーれー) テレスクテンドコテンテレスクテン テンテンテンテンテンドコ テンテンテンテンテンドンドコ テケテンドコドコテンテンドンドコ 冒頭に戻り、何度も繰り返す。ツケが「テンテレスクテン テンテケ」を6回繰り返す部分を豊田や入野では「六段がえし」、真土では「六段ぎり」と呼ぶ。地で最も多く叩く基本的なリズムである。六段返しの後は「テンテレスクテン」で切り、ツケの二人が顔を見合わせ「そーれー」と声を掛け合う。ツケの叩き手が交替する際は、「そーれー」のタイミングで行う。交替直後の叩き手は、軽く打って合わせ、最後の「テケテン」から力を込めて打ち出す。また「囃子」で印象的なのは、腕を高く振り上げて「テンテンテンテンテンテンテケ」と8分音符打ちを続ける部分で、これが前半と中間の2度出てくる。中原の「囃子」は、裏宿を除いて、中間の「テンテンテンテンテンテンテケ」を2回繰り返す特徴がある。平塚の「囃子」の音楽的な構造は基本的に同じだが、細かい打ち方は地域によって微妙に異なる。まったく同じ打ち方をすることはほとんど無い。 「囃子」には「大ばち」と「小ばち」がある。「大ばち」は音数を抜いた叩き方で、競り合いで力を込めて叩く時に演奏する。「小ばち」は、細かい音を加えた叩き方で、一般に単独で叩く時に演奏する。「小バチ」をきれいに入れると、味のある演奏になる。豊田本宿や入野は、小バチを入れたリズミカルな演奏をする。 演奏を「囃子」から始めるときは、「ブッコミ」から入るが、「印場」や「宮昇殿」などの曲に続けて「囃子」に入るときは、つなぎに「キザミ」を演奏する。「キザミ」はツケが小刻みに連打し、徐々に盛り上げて屋台の地に入る。叩き手の腕の見せ所の曲でもある。 城所の「囃子」は変化に富んでいる。「打つけ」から始まり、「刻み」「攻め」「攻め崩し」「乱拍子(ひ上がり・巻き上がり)」という変化部を持ち、「切ばち」で終わる。 |