太鼓のバチは普通にバチと呼び、土屋や金目では太鼓棒と呼んだ。昔は青年達が自分でバチを作った。北金目中久保では、材木屋から木目の通った杉を一尺四寸ぐらいに輪切りにしてもらい、鉈で割き、カンナで削って100丁ぐらい作った。土屋惣領分では、共有地の杉を一本伐り出し、バチの長さに輪切りにして青年団の人数に分け、一人20丁ぐらい作ったという。
バチに使う木の種類は、杉、朴、ヒバ、檜、樫、モミジなどがある。昔は杉が多かたが、折れやすいので、檜も使うようになり、今は朴、ヒバ、檜が一般的である。モミジは北金目や入野で用いており、軽くてねばり強いという。また、昔は冬にねぶたの木(ネムノキ)を山へ取りに行き、枯らしてバチにすることもあった。ねぶたの木は細くても折れず、鳴りも良かったという。 樫はツケ専用のバチで、豊田の一部が競り合いに用いている。硬くて折れにくいが、手へ負担がかかる。朴や檜は振動を吸収するが、樫は振動が直接伝わり、手が破けてしまうので手袋をはめる。その衝撃は「骨にくる」と言う。また革も痛める。樫はオオドには用いない。オオドは硬いバチだと音が抜けない。とくに皮を緩く張ると、柔らかめで太めのバチが良い。 太鼓のこだわりが強い所はバチを何種類か用意している。豊田西町では、オオド用の檜バチ、オオド用の檜芯持ちのバチ、オオド用の杉バチ、ツケ用の檜芯持ちバチ、ツケ用の樫バチなど、各人が5種類程のバチを所有し、用途に応じて使い分けている。檜芯持ちとは中心に芯が入っているバチで、折れにくい。神社の叩き合いでは、オオドは檜芯持ちを、ツケは樫バチを用いて鳴らす。オオドはツケよりも太いバチを用いる。 西町ではバチの握りの部分にスポンジをのせてガーゼを巻き、さらに所有者ごとに色分けしたビニールテープを貼り、名前を記入してある。各自がマイバチとして所有し、他人のバチは絶対に使わない。所有者ごとに区分けしたバチケースにマイバチを収めて山車に積む。練習には檜の芯無しで木目の通ったバチを共用にする。このバチはお客さん用でもあり、太鼓付き合いをしている他地区の人が叩きに来た時に貸し出す。 西町では杉と檜のバチを太鼓連が手作りしている。工務店でバチの長さに割り、それを八角形に木取りして二年ぐらい乾燥させる。よく乾燥させないと、叩いたときに水分がしみ出て革が鳴らなくなるという。八角形に木取りしたバチを各自がカンナで角を削り、マルガンナで整形して仕上げ、バチの先端を丸く、尻も少し丸く加工して完成させる。バチを手作りするのは、芯持ちの木や、木目の通ったバチが店で入手しにくいこと、経費を抑えられる、各自の体型や好みに応じてバチの長さや太さを決めらるなどの利点がある。 |
マイバチを収めるバチケース(豊田西町) 撮影 2004.10.2 八角形に木取りしたバチ(豊田西町) 撮影 2004.9.26 バチの成形(豊田西町) 撮影 2004.9.26 |