食の民具たち 平成16年冬季特別展 (2 桶と甕)

釣瓶と井戸

図録 平成16年1月発行

 井戸から水を汲み上げる方法は井戸の深さによっていくつかあったが、水を汲み上げる桶は、写真14のような釣瓶を用いた。釣瓶は、他の桶には無い形態上の特徴がある。桶樽類はクレ板と呼ぶ側板を竹や鉄のねじりタガで結束するが、釣瓶にかけるタガは、帯鉄と呼ぶ平たい鉄のタガを用いる。これを上部の口輪と下部の後輪に掛けるだけでなく、口縁内側にも掛けるのが特徴である。側板も厚みがあり、すべてにおいて頑丈な作りがなされている。
 釣瓶は上部に横木を渡し、横木の上に鉄の輪が付く。ごく浅い井戸では鉄輪に直接竹竿を通して取り付け、竿を上下させて水を汲み上げた。また、井戸の傍に杭を打って竹竿を結わえ、その先に細い竹を下げて釣瓶桶と結ぶ方法もとられた。竹のしなりを利用して水を汲み上げる簡便なハネツルベである。もう少し深い井戸は、柱の上部に竹竿を一本交差させ、竿尻に石のおもりを詰めた袋を縛り付け、竿の先端に細い竹を下げて釣瓶と結束させる本格的なハネツルベで、井戸に釣瓶を沈めるには多少の力がいるが、石の重みを利用するので楽に汲み上げることができた。
 釣瓶桶は金輪が付いているために水平が保たれ、水をこぼさずに汲み上げることができた。昭和以降は、ブリキ製の釣瓶も使われるようになった。
 この他に、滑車の車井戸もあったが、市域は浅井戸が多いため、それほど多くはなかった。戦後はガチャポンプと呼ばれるポンプ式の井戸も用いられた。こちらは農家の庭やお寺の境内などでまだ現役で使われている。

釣瓶と井戸(つるべといど) 帯鉄(おびてつ) 口輪(くちわ) 後輪(あとわ) 竹竿(たけざお)