食の民具たち 平成16年冬季特別展 (7 やきものの器)

当たり前のもの

図録 平成16年1月発行

 生活用品には、博物館に寄贈されやすい性質を持つものと、そうではないものとがある。本章の陶磁器を例に挙げると、砂皿はそれほど一般的に使われていたと思われないのに、三軒の家から寄贈されている。逆に、ご飯茶碗などは誰もが使う物なのに点数は少ない。茶碗類は長い間同じ物を使い続ける傾向があり、買い換えるのは割れたときで、亡くなったら写真160のように、枕飯を盛って墓前に供えてしまうこともあるから、家にはあまり残らないとも考えられる。しかしそれよりも、砂皿や馬の目皿は寄贈者自身がある程度骨董価値を認め、稀少なものだからと提供することもあろうが、飯茶碗のような日常茶飯の物は、博物館へ寄贈する気が起きにくいであろう。年に数回しか使わない塗り物の膳椀は多数収蔵していても、日常使用していたお茶碗や味噌汁椀は少ないのである。だが、道具を通して生活の歴史をたどるには、日常使ったごく当たり前の物こそが必要になる。
 本章で紹介した資料の中には、同一の資料が複数の家から寄贈されたものが数件あった。写真119-1のご飯茶碗は2軒、写真120の蕎麦猪口は掲載したように3軒、写真123-8の中皿も3軒、写真126の大皿は2軒の家から寄贈されている。一軒の家から一点しか寄贈されてい器は、それが一般的であったか、特殊なものであったかを判別するのが難しいが、同一の資料が別の家からも寄贈されていれば、市域周辺においてある年代に広く普及していた商品とみなすことが可能になる。それは多くの資料を収集した結果、初めて見えてくることである。と同時に、かつては購入先の店が限られ、購入時の選択肢が少なかったこともうかがえる。