食の民具たち 平成16年冬季特別展 (1 臼と杵)

臼と杵のかたち

図録 平成16年1月発行

 同じ臼でも麦・米搗き用の二斗バリ臼と餅搗き用とでは形が異なる。二斗バリ臼は底が深く、餅臼は浅い。米などを搗く場合は、臼が深くないと穀物が外へ飛び出してしまう。これにたいして、餅臼は底が深いと手返しがやりにくいので、浅くできている。また、二斗バリ臼はカエシといって、縁が中央にやや張り出た造りが多く、そのため口縁部がやや狭くなる。これも、穀物が外へ飛び散るのを防ぐためである。餅臼にカエシの必要は無い。また、収蔵品の約半数の二斗バリ臼に、写真7のような埋め木が施してあった。臼本体は欅などで造ったものが多いが、内底を少し刳り抜き、そこに松のような比較的柔らかい木をはめ込むのである。これは、底部の当たりを柔らかくして米が割れるのを防ぐためである。埋め木は消耗品であり、割れたら新しい木と交換して用いた。
 杵にも違いがある。米搗きは杵の重みで米を圧し、米と米との摩擦で糠をとるので、餅搗き用よりも重く大きくできている。最大の違いは杵の先端の形である。米搗き用は先端がくぼみ、餅搗き用は丸くふくらむ。米搗き用がくぼんでいるのは、搗いた米が跳ねるのを防ぐためであり、餅搗き用が丸いのは餅が杵に粘りつかないようにするためである。杵は樫や欅などの堅木を用いるが、写真2−1の杵は、先端部に松の木を接いでいるのが珍しい。どんな理由で木を接いだのかは不明だが、米への当たりを弱めるために先端部だけ柔らかい木を用いたのかもしれない。餅搗き用の杵は写真2−4のように先端から杵尻まで丸いのが標準形だが、2−3・2−5のように四角形や六角形の杵尻もある。一方、米搗き用の杵は杵尻まで丸い。
 写真5の竪杵は中央のくびれた部分を握って搗く杵で、東北地方などの竪杵を思わせるが、先端が斜になっているのが珍しい。醤油用の小麦を搗いた杵というから麹作りに用いたのであろうが、断面が斜なのは大きな桶の周囲から杵を斜めに下ろす場合に、平らに搗くことができるからであろうか。また、写真6の竪杵は皮を剥いだ松の長い棒で、味噌用の大豆を搗く杵と思われる。通常は大釜で煮た大豆を半切り桶にあけ、裸足で踏んで大豆を潰したのだが、人手が多く、大量に味噌を作る家では、こうした杵で桶の周りを囲んで何人もで大豆を搗くことがあり、これを千本搗きなどといった。

欅(けやき) 刳り抜き(くりぬき) 圧し(おし) 摩擦(まさつ) 糠(ぬか) 樫(かし) 堅木(かたぎ) 竪杵(たてぎね) 醤油(しょうゆ) 麹(こうじ) 千本搗き(せんぼんずき)

餅搗き