食の民具たち 平成16年冬季特別展 (6 お膳とお椀)

祝言の膳

図録 平成16年1月発行

 写真109112のように、汁椀のみ祝言用に朱塗りの椀を所有している家が多い。109-2112-5は、汁椀を20人前近く揃えており、祝言の席で用いたものである。祝言の出席者は普通20名を超えることは無かったので、20人前あればだいたい足りたのである。祝言の席では、親椀、平椀、壺椀は黒塗りの椀を用い、この他、尾頭付きや刺身をのせる磁器の皿なども用いたが、汁椀だけは朱塗りの椀を用いることが多かった。そのため朱塗り汁椀を人数分揃えていたのである。そして蓋には松竹梅や鶴、富士山などの吉祥文様が描かれる。また、収蔵品を調べてみると、祝言用汁椀は蓋の数が多い。109と112掲載資料の身と蓋の数を単純に足し算してみると、身は53点、蓋は66点となる。とくに109-3の汁椀は文様の違う二種類の蓋が取り替えられるようになっている。吸い物を変える毎に、別の絵柄の蓋に取り替えることもあったのではないだろうか。祝言の席では、汁椀にまずオチツキボタ餅を盛り、次いでヒボカワ吸い物が出されることが多かった。
 なお、膳に各椀を置く位置であるが、掲載写真のように膳の左手前に親椀、右手前に汁椀、中央に高坏か小皿、もしくはお猪口を配置するのは良いとして、奥の平椀と壺椀を左右のどちらに置くかは今ひとつ判然としない。たとえば、写真107の寄贈者は右奥にオヒラと伝えているし、地域は離れるが大和市上和田の小川家でも奥の左にオツボ、右にオヒラと伝えている(『厚木の民俗10 食生活2』)ことなどから掲載写真の配置を決めたが、聞き取りではオヒラを左、オツボを右に配置したという家もあり、写真159の海宝寺のお膳も逆なので家ごとに異なるようである。また、壺椀は膳の中央に位置することもある。