去る6月30日(日)、プラネタリウム特別投影「星空タイムトラベル 安倍晴明が見つめた天変」が行われました。

NHKの大河ドラマ『光る君へ』で絶賛活躍中の安倍晴明(演:ユースケ・サンタマリアさん)、かなり重要な役どころでほぼ毎週のように登場していますよね。安倍晴明といえば、かつては「陰陽師ブーム」などもあって一躍有名となりました。言わば陰陽師の代名詞ともいえる人物でしょう。しかし、その実態は意外と知られていないのかもしれません。
今回の投影では、まず陰陽師という人たちが何者なのかをお話ししました。律令制度下における役職としての”公的な”陰陽師のほか”私的”な陰陽師もいたことや、律令で規定された”公的”な陰陽師の職掌などを解説、安倍晴明が天文博士であったことや、陰陽寮を退いたのちも”私的”な陰陽師として影に日向に活躍してきたことを紹介しました。下の画像は養老令の解釈書『令義解』の職員令の陰陽寮の項(一部)。陰陽寮には天文博士が一人配され、天体観測を行い異変が観測されれば密封して奏上することが規定されています。

続いて当時の貴族の日記に残されていた、安倍晴明がどのような天変を観測し密奏したかという記録を、天変をプラネタリウムで再現しつつ紹介しました。え、なんで密奏した内容が貴族の日記に載っているの?というツッコミは置いておいてください。世の中、そんなもんです……。
例えば『親信卿記』(平親信の日記)天延二年十二月三日条に「晴明、密奏を奏せしめて曰はく、「鎮星、鬼第四星を犯す」と云々。」とあります。鎮星は土星、鬼は西洋星座のかに座の一部です。犯すというのは見かけ上かなり接近することを表し、通常は角度にして42分角以内の接近を「犯」というそうです(満月の見かけの直径がおおよそ30分角)。実際、プラネタリウムで再現してみると、たしかに2つの天体が近づいて見えました(下画像)。ちょうどプレセペと呼ばれる散開星団の中に土星が入ったように見えたので、現代であれば天体写真の格好のターゲットとなったでしょうが、当時の人からすると良からぬことだったわけです(その結果どうしたのかは『親信卿記』には書いてありませんが)。

最後に安倍晴明の存命中に起きた、彼が見たであろう天変=天文現象をプラネタリウムで再現し紹介しました。
①彼が天文博士在任中に起きた皆既日食(日本紀略に記録があり日本最古の皆既日食の記録として知られる)
②大河ドラマでも描かれた寛和の変において「帝おりさせ給ふと見ゆる」天変(月によるプレヤデス星団の食と歳星=木星による氐宿の距星=てんびん座α星の犯の2説あり)
③彼が熒惑星祭をさぼった(?)とされる熒惑星(火星)による軒轅女主(しし座のレグルス)の犯
④永祚元年に出現したハレー彗星(下画像)
などです。

今回の投影、ありがたいことに満員御礼!整理券1番の方は名古屋から朝一番の新幹線で来られたとか。かなりマニアックな内容になってしまった気もしますが、お楽しみいただけたのであれば幸いです。
次回の特別投影「星空タイムトラベル」は”歴史を騒がせた彗星”をテーマに10月に開催予定です。お楽しみに!