現在投影中のプラネタリウム番組「見たか家康 家康の生 涯を彩る天変」。当番組で取り上げた天文現象を深堀りする連載記事(?)の第2回は「慶長九年の超新星」です。

第1回では元亀三年(1577年)に出現した超新星を取り上げましたが、家康の後半生にも肉眼で見える超新星が出現しています。SN 1604です。ドイツの天文学者ヨハネス・ケプラーが詳しく観測したため”ケプラーの星”とも呼ばれます。下の絵(星図)はケプラー自身が描いたもの。Nとラベリングされている赤矢印の先に描かれているのがSN 1604です。

SN 1604は慶長九年閏八月十六日(1604年10月9日)に初めてその存在が確認されました。出現位置はへびつかい座の足元……宵の南西の空の低いところに見えたはずです。当時、宵の南西の空はとても賑やかでした。その壮観ともいえる眺めは……ぜひプラネタリウムでお楽しみください。
元亀三年の超新星(SN 1572=”ティコの星”)と同じくIa型超新星と呼ばれるタイプの超新星です(Ia型超新星の説明は「見たか家康 徹底解説① 元亀三年の超新星」をお読みください)。SN 1604が出現した位置には、現在、爆発の残骸(超新星残骸)を見ることができます。下の画像はスピッツァ―赤外線宇宙望遠鏡、ハッブル宇宙望遠鏡、チャンドラX線天文台(宇宙望遠鏡)で撮影した画像を合成したもの。外側のガスは秒速2,000 kmで膨張しています。

Image Credit: NASA

ところで、2023年5月23日現在、おおぐま座の銀河M 101(※1)に超新星が出現し話題になっています(※2)。発見者は日本のアマチュア天文家で”超新星ハンター”の板垣公一さん(※3)。この超新星は”ティコの星”や”ケプラーの星”と異なり、太陽の8倍以上の恒星が最期を迎えるときに起こす大爆発、II型超新星です。さすがに肉眼では見えませんが、空が暗いところで大きめ(口径数十cm)の望遠鏡を使うと私たちの目でも見えたようです。

New Supernovaとある青白い星がSN 2023ixf
Image Credit: Craig Stocks

しかし、一人の人間の一生のうちに二つも肉眼で、しかも惑星なみに明るく見える超新星が出現するというのは非常に稀なこと。家康が天文学者だったら泣いて喜んだことでしょう。これ以降、北半球では肉眼で見えるほど明るくなった超新星は確認できていません。また、”ティコの星”も”ケプラーの星”も天の川銀河の内部で発生した超新星でした。そして”ケプラーの星”は、これまた現時点で確認されている、天の川銀河内で発生した最後の超新星です。”ケプラーの星”出現以降、何回かは天の川銀河内で超新星爆発が起きたようですが、残骸しか見つかっていません。
私たちは、生きているうちに”次”を見ることができるでしょうか?

天の川銀河内で確認されているもっとも”若い”超新星残骸G1.9+0.3(※4)
Image Credit: X-ray_NASA/CXC/NCSU/K.Borkowski et al./Optical_DSS

<注釈>
※1
回転花火銀河というニックネームがついている渦巻銀河。地球からの距離は約2100万光年。

※2
この超新星に与えられた符号はSN 2023ixf。4桁の数字は発見年(西暦)、次のアルファベットは発見順(その年に最初に発見された超新星がa、次がb、……、aa、ab、……、aaa、……と続く)を表す。

※3
彼が発見した超新星は、SN 2023ixfで172個となる。

※4
超新星爆発が地球から見られたとすると、145年ほど前のはずだと考えられている。