1階寄贈品コーナーで展示中の企画展「作家中勘助の詩を詠む日々と平塚の自然」より中勘助の詩を一編紹介します。この詩は大正14(1925)年に詠まれたものです。
「海べの野をゆけば」
海べの野をゆけば なでしこぞ咲きつづく
空にひびく雲雀(ひばり)の歌は わが心をたのしましむ
なでしこの野をこゆれば しづかなる川ながれたり
葦(あし)の葉はかすかにそよぎ 朝の雲影をうつす
あはれここに松風と波の音をききつつ ひととせもととせもあらまし
大正十四年七月三日
ここの川は花水川のことです。なでしこ(カワラナデシコ)は市内ではもう見られなくなってしまいましたが、当時はこの詩のように咲いていたんですね。
企画展「作家中勘助の詩を詠む日々と平塚の自然」は11月3日(水・祝)まで開催しています。
みなさまのご来館をお待ちしています。
※野原に咲く野生のなでしこは和名をカワラナデシコ(別名ナデシコ、ヤマトナデシコ)といい、平塚市の花に選ばれているのもこのカワラナデシコです。平塚市内では1999年を最後に記録が途絶え、市内の野生株は絶滅したと考えてられています。カワラナデシコはお花畑のように一面に咲く、というよりも写真のように、他の草々の間に生える植物です。
※中勘助の文体は独特で、旧仮名遣いとも異なる、文字の使い方をしています。「しづかな流(しずかな流れ)」「ほほじろ(ほおじろ)」など。