昭和59年生まれの方の初節句(はつせっく)のお祝いに、岩槻市(現・さいたま市)の東玉で購入された七段飾りのおひなさまです。昭和30年代以降のおひなさまは、七段飾りが主流になり、昭和後半には競うように雛が大型化していきました。この人形は、時代を象徴するような大きくて豪華なおひなさまです。
博物館では市民の方から寄贈された約40組のおひなさまを収蔵しています。このおひなさまには、他のひな人形には見られない特徴があります。
三段目の人形をご覧ください。「あれ、五人囃子じゃない、七人囃子だ!」。そうなのです。これは七人雅楽といって、宮廷で雅楽を奏する楽士の人形なのです。奏楽台の上に乗り、それぞれ担当の楽器を手にしています。左から楽太鼓(がくだいこ)、鞨鼓(かっこ)、琴(こと)、笙(しょう)、琵琶(びわ)、篳篥(ひちりき)、横笛(おうてき)になります。
二段目の三人官女をご覧ください。左右の官女が持つ提子(ひさげ)と加えの銚子は一般的ですが、中央の官女は盃をのせた三方ではなく島台(しまだい)を持っています。島台とは、松竹梅などをあしらった、おめでたい飾り物で、結婚式のときに用いられました。
五段目の仕丁も持ち物が変わっています。左から熊手、ちり取り、竹ぼうきという御所を掃除するための道具を持っています。
さて、三人官女の島台、七人雅楽、仕丁の掃除道具は、関東のおひなさまには見られない、京風おひなさまの特徴です。雛人形は京都で生まれ全国へ伝わっていきました。武家文化の江戸では五人ばやしが好まれ、それが関東風おひなさまの特徴のひとつになりました。昭和後期ともなると、京風・江戸風を問わず様々なタイプのおひなさまが人形店で販売されるようになりました。
このおひなさまは、3月末まで展示する予定です。