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発見!ひらつかの民俗 第10回 民具収集の現場から(2011年7月4日)

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発見!ひらつかの民俗


第10回 民具収集の現場から(2011年7月4・5日)

 博物館の民俗資料は、1.実物資料、2.聞き取り調査記録、3.観察記録、4.映像・音声等の記録に分けられる。1はいわゆる民具で有形、2は聞いた話しや伝承の記録で無形、3は石仏や碑など形象物の記録、4は写真・動画・録音などである。収蔵室に収められている資料は1の民具である。
 質量ともに充実した民具資料が収集される機会は、旧家の母屋や蔵が解体される場合が多い。この度、平塚市平塚のU家で蔵の中の生活用具を整理することになり、5月4日に収集作業を行った。蔵は昭和5年建築の当市では珍しい石蔵で、内部は2階になっており、当初は米や農機具などの収納庫として使用されていた。現状は衣食住に関する生活用具がぎっしりと詰め込まれていた。
 U家では業者を頼んで内部の生活用具をすべて処分することになり、博物館で必要な資料をいただくことにした。収集作業は、業者が搬出作業を行う1日に限定された。次から次へとトラックの荷台へ民具を運び出す作業員の傍らで、資料を選定し確保する作業に追われた。
 蔵の内部はまるごと昭和の生活資料館であった。とくに昭和30年代の生活用具が多かったようだ。昭和40年代に母屋を建て替える以前の、いわゆる“田の字の家”で使用されていた建具や生活用具という。この蔵の収蔵状況を見て感心したのは、段ボールに中身の名称が書いてあったり、桶やザルなどの道具一つ一つを新聞紙や包装紙で梱包したりして、ていねいに分類整理されていたことだ。どんな思いで整理されたのだろうか。いつかまた使うかもしれないから、あるいは思い出のためにとっておいたのだろうか。しかし、時代が移り便利な道具が増えれば再び使われる機会はなく、梱包されたままに処分されていった。

蔵の内部 処分される建具や長持 新聞紙で包まれた御飯籠
▲蔵の内部 ▲処分される建具や長持 ▲新聞紙で包まれた御飯籠

  翌5日、ワゴン車一台に民具を満載して博物館へ運んだ。収集した資料は少しずつリスト化、水洗い、撮影、計測、附票の貼付、データベース化などの整理を進めている。受け入れた資料は次のとおりである。団扇64点、大釜と大釜の枠、半切り桶、オヒツの蓋、御飯籠、牛乳受け、灯籠、棒秤と分銅、桶、オヒツ、クルリ、棒11点、手桶、桶、クサケズリ、アンカを入れる袋?、品川アンカ、電気コタツ、電熱器、薬箱、コウジブタ、デーケー1荷、万石、マンガクワ、籾殻カマド、羽釜、鉄輪、スルメのオンガー、スイノウ、蠅帳、蚊帳、扇風機、三味線、前掛、敷布団、掛布団2点、掻巻、布団皮、手ぬぐい52点、ふきん3点、タオル2点、手ぬぐい包み紙、箪笥、印袢纏、着物、割烹着、木綿袋8点、木綿袋(裂いたもの)5点、端布(木綿袋)4点、麻袋、麻布、袋、端布6点、紐15点、靴下2点、股引、手甲、ゲートル、前垂れ、前掛け4点、手袋、手提げ、反物2点。以上161種231点。

団扇の一部を収めていた箱 平塚の八百藤商店の団扇 平塚銀座通りの片山カバン・靴店の団扇
▲団扇の一部を収めていた箱 ▲平塚の八百藤商店の団扇 ▲平塚銀座通りの片山カバン・靴店の団扇

 いくつか特徴的な資料に触れておく。従来、団扇と手ぬぐいはほとんど収蔵資料がなかったが、団扇64点、手ぬぐい52点といずれもまとまった量が寄贈された。その大半が平塚の商店が暑中御伺いに団扇を、御年賀に手ぬぐいを顧客へ配ったものである。おおむね昭和30年代のものと思われ、団扇は現代のプラスチック製と違い、竹や木で骨が作られ、花火や金魚など夏の風物詩が描かれている。大釜はブリキの枠付で寄贈された。戦後、ガス釜の導入まで農家で使用された籾殻竈は初収集である。掻巻等の布団類も乏しかったので一部いただいた。蚊帳は一般的な吊り下げ式ではなく、大人用枕蚊帳と称するワンタッチ式で卓上に置く蠅帳と同じ構造で、これも初収集である。今夏の節電対策でひそかな脚光を浴びたポリエステル製ワンタッチ蚊帳の先がけともいえよう。

籾殻竈 大人用枕蚊帳
▲籾殻竈 ▲大人用枕蚊帳

 収集の現場では、桶類の多くが処分された。大きな桶は収蔵スペースを要するのでほぼ諦めていたが、たまたま底に「大正三年九月(人名)」と墨書された半切り桶を見つけ、これだけは収集することにした。博物館の収蔵室が無尽蔵で、資料整理の人手があれば、受け入れたい資料はたくさんあった。昭和30年代のおもちゃ箱多数、たくさんの箪笥や長持に収められていた衣類や蒲団、障子や襖、ガラス戸などの建具類が、トラックに積み込まれ破砕処理場へと運ばれていった。処分されればモノの存在はこの世から消滅するが、博物館に迎えられれば、洗浄され、撮影され、番号を附けられて、収蔵棚に配架される。そして平塚の過去の暮らしを伝える証人として、百年後の人たちにも活用されうる。その待遇は天と地の差である。しかし、その運命は紙一重である。民具収集の現場では、限られた諸条件の中でなにを選ぶか、博物館学芸員の見識が問われている。

 

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