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民俗探訪会 相模湾の民俗第29回「大磯の漁業を学ぶ」

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民俗探訪会
相模湾の民俗 第29回 「大磯の漁業を学ぶ」 2014年7月16日

 暑い一日でした。大磯町漁業協同組合の森谷事務長に、大磯の漁業の現況や組合の経営について楽しく分かりやすいお話をうかがうことができました。引き続き、午後は組合長の加藤孝さんにお話をお願いしました。漁師歴57~58年の体験に基づく、海と漁と気象に関するお話に一同深い感銘を受けました。定置網を張る場所の水深により入る魚種が違ってくることなど、初めて知ることがたくさんありました。台風のとき、私たちの多くは交通機関の乱れにより通勤通学にダメージを受ける程度ですが、定置網漁師は網を揚げるか揚げないかで一千万円の損失がかかっているのであり、「台風が来るたびに胃がキリキリしちゃう」という言葉に、農業も同様に、自然を相手にする仕事の厳しさを思い知らされました。この場を借りて御礼申し上げます。
 先月実施した平塚との違いでいえば、大磯ではシラス網の導入は平塚よりも遅く、いまだに四統の地曳網が現役であること、平塚では行われていない延縄が比較的やられていることなどが挙げられます。
 大磯の町にはしめ縄が張られ、20日の御船祭に向けじょじょにムードが盛り上がってきているように感じました。
 ★行程:大磯駅~大磯町漁業協同組合(昼食)~大磯港~熊野神社~浅間神社~道祖神社~神明神社~大磯駅  参加者19名

クマデでシラスを平らに均す 松道丸の干ジラスの様子

大磯港の近くで、干ジラスをつくる様子が見られた。松道丸(まつみちまる)は約15年前からシラス漁を始め、平日はシラス漁、休日には遊漁船にお客さんを乗せ釣りをしている。一時間くらいシラスを天日で干す。夏は湿気が高いので春秋よりも干す時間を長くするという。

▲クマデという自製の道具でシラスを平らに均す 松道丸の干ジラスの様子
大磯町漁業協同組合会議室にて

 大磯町漁業協同組合の森谷事務長にご説明していただく。お話の概要は次のとおり。
漁業の現況 現在は遊漁船と兼業の漁師が多い。専業漁師は定置網に従事している人をのぞけば、刺網・延縄・タコツボなどで漁を経営する一軒だけであるという。刺網ではヒラメやカレイを捕る。延縄ではアカムツ(ノドグロ)やクロムツなどの高級魚が捕れる。平日は刺網で魚を捕り、週末は遊漁船としてお客さんを乗せる船もある。シラス網は2ハイあり、干しジラス、カマアゲ、オキヅケなどの加工をしている。地曳は四ヵ所でやっている。地曳で捕れた魚は小田原に出荷するが、魚に砂が混じるので値が安くなる。だから多くはオカズを捕る感覚でやっている。台船という地曳網は観光地曳をしている。漁船はぜんぶで42隻あり、遊漁船が最も多い。
出荷 昨年の12月までは大磯の市場で毎朝競り売りをし、直接魚屋が買いに来ていた。しかし、魚屋が10軒以下に減り、競りが成り立たなくなった。大磯に水揚げした魚は小田原へ陸送している。魚屋は、小田原や平塚の市場から仕入れたり、漁師から直接買い付けたりしている。
海の環境 魚が捕れなくなった理由は、乱獲が大きいが、遊漁船で撒き餌をやると海底がドロドロに汚れてしまうなど様々な要因がある。
むかしの漁師 むかしの定置網漁師は、夜になると平塚のスナックへ行き、2時頃まで飲んで職場へ直行するなど豪快だった。

大磯町漁業協同組合会議室にて森谷事務長のお話 
大磯漁港でタタミイワシの天日干し タタミイワシの型枠 お買いもの
▲大磯漁港でタタミイワシの天日干しが見られた 
 ふじ丸という船が行っている。
タタミイワシの型枠 ▲お買いもの 
定置網の船 組合会議室にて加藤組合長のお話
定置網の船 クレーンがついているのが特徴 ▲組合会議室にて加藤組合長のお話

加藤孝さん(大磯町漁業協同組合長)の漁話
漁業歴
 父親は一本釣りと延縄の漁師で鯛釣りの名人だった。学校卒業後、父親について漁を始め、箱船で三時間くらい櫓を漕いで二宮のセノウミへよく釣りに行った。それから35年ぐらい延縄をやった。夜中11時頃に出て、三浦、千葉、下田まで行き、アカムツ、クロムツ、キンメなどを延縄で釣った。人と同じ仕事をしていたら魚は捕れない。だから人のぜったい行かない場所で延縄をやった。延縄は体力的に大変なため、20年前に定置網に切り替えた。かつては大磯に定置網が二統あったが、当時はどちらも潰れてしまっていた。定置の本場である富山県で網をつくり、県の許可をもらって網を張った。遊漁船はやらない。釣れないとわかっている日でもお客さんからお金をもらって行かねばならないのは嫌だ。
定置網
 魚は夕方になるとフカバ(水深100~150㍍)から餌を求めてアサバへ上がる習性がある。だから、ミゾと呼ぶフカバからアサバへ上がってくる場所に定置網を設置する。二宮や小田原は海底がすぐに深くなるので、45~60㍍の所に定置網を張っている。ブリは冬には水深150~200㍍のフカバを泳いでおり、夏はアサバの魚を捕るので冬も夏も平均に捕れる。これに対して、大磯の定置網は水深30㍍の所に張っているので冬場の魚はなかなか捕れない。
 定置網には入口があるから出口もあり、入った魚の70%は逃げる。一網打尽にはしない漁業である。べた凪といって、風のない日でも潮の流れはある。潮が速いと網に入った魚がみんな出て行ってしまう。
 夜中の12時30分に起きて12時50分頃に集合し、現場へ向かう。網を引き揚げ、船に魚を入れるまでに一時間かかる。2時頃から魚を魚種別大中小に選別する。選別は手間がかかるので人手が必要である。小田原の市場は5時に始まるので、それまでに選別を終える。小田原の市場は一番競りと二番競りがあり、一番競りでは㎏千円のものが、二番競りでは600円に値が落ちてしまう。定置網ではサバ、アジ、カマスがよく捕れる。定置の6割はサバである。日曜と祭日は休業である。
 海の中でも海藻に花が咲き、網が汚れてしまう。だから網はスペアがないと、汚れたときに取り替えができない。大水の後は、川からゴミが出て定置網にゴミがいっぱい入ってしまう。相模川のダムを切るとゴミが出る。
漁と気象
 過去20年間に10回くらい、台風で定置網が壊されている。だから台風が来ると胃がキリキリしちゃう。台風の進路によっては網をぜんぶ揚げないといけない。九州から真東に曲がってくる台風は波が沖に行くので網は壊れない。相模湾を北上する台風は網を揚げる。判断を誤ると一千万円の損害が出る。一時間くらいで網を揚げ、港の堤防へ下ろす。ただし、網は風では壊れない。潮の流れが速いと波が来るたびに網が上下に引っ張られるので切れてしまう。
 波には必ず淀みがあるが、イナサ(南東)の風は淀みがないので船は走れない。最もこわい風で必ず遭難する。
 むかしから「高麗山に雲がかかると雨が降る」といわれ、必ず降る。「富士山に笠雲」は南の風が吹き、決まって雨が降る。夜にカンダチが鳴ると「明日はものすごく良い天気になる」と言われた。しかし、「雷三日」と言って必ず3日間続く。

 磯をつぶして港をつくった。子どもの頃は磯でアワビ、サザエ、テングサ、ハバノリが捕れた。天然ワカメはこわくて歯ごたえがあり、磯のにおいがぷんぷんしてうまい。
これからの漁師
 なぜ漁師の生活が良くならないのか。それは自分で捕った魚を自分で値を決められないからである。今はぜんぜん魚が売れない。むかしの行商のように、トラックに魚を積んでいけば必ずいい商売になる。これからの漁業は捕る、加工する、販売する、すなわち六次産業の時代である。これだけの大きな海に魚がたくさんいる。俺に言わせればお金がいっぱい落ってこってる。海の中ほど金を持っているものはない。漁師は、捕った魚を自分で売らないとダメ、そういう時代になった。

北下町のまつり船 祭太鼓の台
▲北下町のまつり船 ▲祭太鼓の台 太鼓の練習用に、竹へ縄をぐるぐる巻いてバチで叩くむかしながらのやり方。(北下町大北の道祖神社にて)

★次回:2014年7月20日(水) 「相模湾の民俗30 大磯御船祭見学」」  

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