火星から飛んできたとされるいん石が地球上で見つかっています。
火星いん石と呼ばれ、火星に大きないん石が衝突し、火星の岩石が宇宙空間に飛び出して地球に到達したと考えられています。 今まで地球に落ちたいん石は、その起源は火星の軌道と木星の軌道の間に多く見られる小惑星であると考えられてきました。それが1 9 7 0年台頃から分化が進んだエイコンドライトと呼ばれるいん石の種類の中に、そのいん石が形成された年代が、ほとんどが45.5 - 45.6 億年付近を示す多くのいん石よりも新しいと考えられる上に、玄武岩など地球の火成岩に似た鉱物や組織を持ついん石が見つかりました。これらは月や火星に大きないん石が衝突した際に、表面の岩が砕かれて宇宙空間に弾き飛ばされ、それらの一部が地球に落ちてきたものです。 月は近い天体ですが、いくら隣の惑星とはいえ火星から本当に飛んできたのでしょうか。まるでS Fの世界の話のようにも思えます。しかし、科学的な証拠を積み上げていくと、確かに火星から飛んできた、と考えざるを得ないのです。そして、火星の石を直接手にとることのできない今、火星の地質や進化の過程を教えてくれる唯一の物質になっています。 SNCいん石 火星から来た、と考えられるいん石は、S N Cいん石(スニック)と呼ばれています。Sはシャーゴッティと呼ばれるインドに落ちたいん石Nはナクラと呼ばれるエジプトに落ちたいん石Cはシャシニーと呼ばれるフランスに落ちたいん石で、それぞれの頭文字からつけられています。S N Cいん石が火星から来たという証拠は、 ・それぞれの生成年代が1 3億年前後であること、 ・宇宙空間にあって宇宙線の照射を受けていた時間が短いこと、 ・地球のような大きな重力の元で生成された組織を持つこと さらにSNCいん石にはマグマに水を含む環境であったこと、磁鉄鉱など酸化された鉱物が含まれていることから大気のある環境であったことがわかってきました。このような条件を満たす母天体として火星は有力な候補でしたが、いん石が少なく、はっきりしたことはわかりませんでした。 1 9 7 9年南極で発見されたE E T 7 9 0 0 1いん石はSNCいん石のシャーゴッタイトに分類されました。その鉱物の中に閉じこめられていた希ガスを分析しところ、バイキング着陸船の火星大気成分の分析結果と一致したのです。これによってS N Cいん石が火星起源であることが明らかになりました。 ただひとつ、4 5億年前の生成年代でありながら火星いん石とされる例外があります。それは、A L H 8 4 0 0 1いん石で、原始生命の痕跡がある、と発表されて有名になったいん石です。 |
月いん石 (生命の星地球博物館蔵) |
ナクライト (生命の星地球博物館蔵) |
ザガミいん石 (シャーゴッタイト、生命の星地球博物館蔵) |
EET79001 (NASA) |
ALH84001 ALHとはアメリカの南極観測のマクマード基地近くに広がるアランヒルズと呼ばれる場所の名前をとったもので、数少ない南極いん石の採集場のひとつです。 ALH 8 4 0 0 1は1 9 8 4年にアメリカ科学財団(NSF)の調査隊によって発見された重さ約1 . 9キログラムのソフトボール大の隕石です。これが火星から飛来したものであると分かったのは、1 9 9 3年になってからでした。 火星から飛んできた隕石は、当時までに合計1 2個発見されており、A L H 8 4 0 0 1の年齢はこれらの隕石の中で最も古く、4 5億年前に形成されたものであることがわかりました。これは火星が誕生してから、1億年ほどたった頃からの記録をとどめる貴重な岩石ということになります。 1 9 9 6年8月、ジョンソン宇宙センターのデービッド・マッケイの率いる科学者グループが、サイエンス誌に火星の原始的なバクテリアのような生命が存在したことを立証する証拠の発見について論文を発表しました。いくつかのデータから考えて、3 6億年以上前の火星に原始的な生命が存在したと考えられるというのです。いん石中の放射性同位元素の測定と宇宙線の照射からそのシナリオはこう考えられるのです。 ・45億年前、火星の中から火成岩が誕生初期の火星表面に噴出した。3 6縲鰀4 0億年前に、岩はおそらく最初のいん石衝突によって砕かれた。その頃の火星には水と厚い大気があり、岩は水中にあり、水は岩石の亀裂にしみこんでいった。水は、炭酸塩鉱物を沈着させ、原始的なバクテリアが割れ目に入り込んで棲息していた。地球上の微生物と比べると、サイズは1 / 1 0 0と、極めて小さかった。 ・1 6 0 0万年前、小惑星のような天体が火星に衝突した。その時の衝撃で、地殻の一部が宇宙空間に放り出された。 ・1万3 0 0 0年前、火星の岩石は地球の引力圏に捉えられ、隕石として南極大陸に落下した。 |
ALH84001 (NASA) |
生命の痕跡 いん石に生命が存在したことを立証する証拠は3つある、とされています。 ・1番目の証拠 PHA(多環式芳香族炭化水素たかんしきほうこうぞくたんかすいそ)の存在PHAは、微生物が死滅した後、化学変化を起こしてできる有機物。このPHAは地球起源のものではない、とされた。 ・2番目の証拠 磁鉄鉱と磁硫鉄鉱の存在炭酸塩の微少な粒子の中に磁鉄鉱と磁硫鉄鉱を含む。これらの鉱物は、地球の原始的なバクテリアによって生み出された鉱物に非常によく似ている。 ・3番目の証拠 高解像度走査電子顕微鏡で見つけた小さな「卵形」(20~100ナノメーター)バクテリアの化石の存在 下の写真のような卵形あるいはチューブ型をした微化石のようなものが発見され、生命が存在した根拠とされた。 これらに対する反論は、それぞれの証拠とされるものは生物の生理的な反応に限らず、生成可能であるということです。それに対し、2000年12月、いん石内部から新たに磁鉄鉱の結晶を発見した、と発表がありました。走磁性細菌という種類の細菌が残したものということです。もちろんこれにも反論がなされており、これからも火星生命の謎解きが熱く続けられていくことでしょう。 |
ALH84001の電子顕微鏡写真 (NASA) |